Durst, F.G., Ou, H.D., Loehr, F., Doetsch, V., and Straub, W.E. (2008) The better tag remains unseen. J.Am.Chem.Soc. 130, 14932-14933.
小橋川先生の INSET 法では、目的の蛋白質と別のよく溶けるモデル蛋白質をソルターゼと呼ばれる酵素で繋げていました。一方、上記の論文では、酵素とそのリガンドとの相互作用を利用しています。もちろん、この親和性が弱ければすぐに離れてしまいますが、ここで使われているようなカルモジュリン(hCaM)とあるペプチド(CBP)でしたら、なかなか外れません。
この繋げ方は共有結合を利用しているわけではありませんので、題名の「切り貼り」はちょっと該当しないですね。
まず、目的の蛋白質の後ろに CBP(26 残基)が繋がった状態の遺伝子を作ります。目的の蛋白質はもともと不安定な性質を持っているでしょうから、頭に GST などの溶けやすい蛋白質を融合させておき、後で好きな時に切り離せるようにしておくと良いでしょう。そして、この CBP-fusion 蛋白質を 15N/13C 標識体として大腸菌に発現させます。一方、hCAM は非標識体として rich 培地で別途発現させます。後で精製し易いように、hCAM の後ろに His-tag などを付けておくと良いでしょう。そして、両者を混ぜ合わせると、CBP 部分が hCAM にがっちりと(鍵と鍵穴のように)くっ付くことにより、二つの蛋白質を繋げることができるという仕組みです。一旦つながってしまえば、先ほどの GST を FactorXa などのプロテアーゼで切り話しても大丈夫かもしれません。
この方法で少し問題となるのは、この CBP が hCaM に捕らえられると、CBP がしっかりとした構造をとるようになり(鍵穴の構造に沿った鍵の構造を採ります)、1H-15N HSQC などで信号が観えてしまう事です。論文では 23 残基分の信号が余計に観えてしまったと書かれていますので、そこだけは文字通り目をつむって見ないことにしましょう。
また、CaM には4つの Ca++ を配位させてありますので、目的の蛋白質を Ca++ で滴定したいなどの場合にはこの方法を使うことができません。その場合は、別の親和性の高い組み合わせ(例えば、PDZ ドメインとリガンドペプチドの組み合わせが勧められています)を試すと良いでしょう。解離定数が < 1 μM の親和性が必要ですので、複合体の形でゲル濾過に1時間ほど流しても、まだしっかりとくっ付いて溶出してくるような系を使うと良いでしょう。
そう言われてみれば、この方法は蛋白質を磁場中で配向させて、残余双極子相互作用値(RDC)を観る場合にも使われていました。CaM の Ca++ の代わりにランタノイド金属などを配位させると、CaM は NMR の磁場中で配向します。そこで、目的の蛋白質に CBP を付けておくと、その CBP にくっ付いた CaM につられて目的の蛋白質も配向してしまうという仕組みです。もちろん、CBP と目的の蛋白質の間のリンカー部分が柔軟過ぎて、目的の蛋白質だけがふらふらと揺れてしまうと台無しになってしまうのですが。
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