Bruker 社の NMR マシンで測定し、これを Topspin, Xwinnmr などでフーリエ変換する場合には、下記の要領で補正するとよいでしょう。
なお、下記は D2O にロックをかけることを想定していますが、d-DMSO などにロックをかける場合でも同じ要領です。
まず、ロックを掛けた後でもよいと思いますが、ロックの位相をできるだけきれいに合わせます。位相がベストの時にロック信号が最高となります。
1H の一次元スペクトルをできるだけ高分解能で測ります。そして、DSS のピークの中心を測ります。仮にそれが x Hz に観られたとしましょう(ppm ではなく Hz 単位です)。
EDP の SR というパラメータに x の値を入れます。そして、スペクトルを見直した時に、DSS のピークがちゃんと 0 ppm に来ていれば、1H の補正は成功です。
13C の補正については、DSS, TMS の 13C 直接測定で上記と同じように行う場合もありますが、ここでは計算による方法をご紹介します。
1H の基準周波数を調べます。BF1 と呼ばれるパラメータで、例えば 500.13 MHz のような値がセットされています。同様に、13C の基準周波数は BF2 に、15N の基準周波数は BF3 に保存されています。もちろん、BF1, BF2 は二次元や三次元測定のパラメータでないとセットされていないかもしれません。また、下記で SR(1H) とはパラメータ x のことです。
SR(13C) = (0.25144953 * BF1 - BF2) * 1000000 + SR(1H) * 0.25144953
この値を EDP での 13C の SR に入れます。
SR (15N) = (0.101329118 * BF1 - BF3) * 1000000 + SR(1H) * 0.101329118
この値を EDP での 15N の SR に入れます。
上記で SR(1H) が0であったと仮定します。すると、13C では -2.6668 ppm, 15N では -0.023467 ppm もずれていることが分かります。つまり、13C では真の化学シフト値よりも 2.7 ppm も小さい値が表示されてしまうのです。
BioMagResBank に登録する際には、もし上記の方法で補正したならば「1H については DSS を用い、13C, 15N については磁気回転比の値から補正した」とコメントすることになります。
もちろん、上記のずれが生じている事実を Br 社はよく認識しています。しかし、企業によっては何かしらの解析ツールを古い値を使ってすでに開発してしまっている場合もあり、バージョンの途中で正しい補正にしてしまうと、逆にさまざまな障害が予想されるのだそうです。
なお、毎回このような補正をするのは面倒だという場合には、マシンごとに、かつ、ロック溶媒ごとに、温度を変えた時の変換表を作っておくとよいでしょう。温度を変えながら DSS のピークを辿っていくと、非常にきれいな直線に乗ります。急いでいる場合には2点(5度と 40 度など)を測り、後は比例計算から補間してもよいでしょう。そして、1H, 15N, 13C の SR 値の式をエクセルに書いておけば、後はネズミを滑らせるだけで全て OK です。
1 件のコメント:
"ブルの前でネズミを滑らせる"
ありがとうございます。ケミカルシフトの取り扱いはいろいろと面倒ですね。
蛋白質試料の中に少量のDSSを入れるということはこれまでほとんど行ったことがありません。
DSS入標準試料を別に測定して合わせるのですね。
変換表の案、参考にさせて頂きます。早速作成してみます。
windowsなんてOSが変わる度に使い勝手が変わることなんかを考えると、
せめてXwinnmr -> Topspinへ変わるタイミングでケミカルシフトの取り扱いについて考えてほしかったですね。そのへんの細かい融通は日本メーカーがよいかもしれません。どうでしょう?
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