Immobilized-metal affinity chromatography (IMAC) 用の樹脂(レジン)には、nitrilotriacetic acid (NTA) と iminodiacetic acid (IDA) の主に2種類があります。どこかで画像検索していただくと分かりますが、両者は金属を配位する部位の化学構造が微妙に異なります。
IDA の方が安価ですが、蛋白質の精製度は少し落ちます。また、金属のキレート度合いも少し低めですので、DTT, EDTA などの溶液に弱いという欠点があります(金属を配位している結合の数が、IDA が3本に対して、NTA は4本)。しかし、金属を付けたり外したりの操作が楽ですので、頻繁に NaOH でカラムを洗っては再生することもできます。そのため、大量のサンプルをまずは粗精製したいという場合には、IDA の方が向いているでしょう。
今回は、大腸菌を超音波破砕した後に、遠心の上清を 400 mM NaCl 存在下で DEAE にパスさせました。これでかなりの核酸成分が除かれ、それ以降の精製が楽になります。核酸がたくさん残っていると、その後のカラムに蛋白質がくっつきにくかったり(その結果、パスしてしまったり)、溶出ピーク(Abs 280 nm)が変な形になりやすいです。そして、最終的には、核酸のコンタミにより結晶になりにくいという特徴もあります。
一回目の精製では、核酸を除いたサンプルを DTT なしで Ni-chelating カラムに通したのですが、蛋白質の溶出と同時に大量の沈殿が出てしまいました。これは、Ni-IDA オープンカラムを作ったばかりであったためです。その新しいレジン(Chelating sepharose fast flow)には、最初は金属が何も付いておらず、自分で好きな金属(コバルトイオン、ニッケルイオンなど)を付ける仕様になっています。そこで、NiSO4 溶液をレジンに通して Ni をキレートさせました。その時、400 mM イミダゾールで洗って余剰の(キレートされていない)Ni イオンを洗い流しておくべきだったのですが、それを怠ったために、蛋白質の溶出時に大量の Ni がはずれてしまったようです。その結果、溶出液ではその Ni に His-tag 蛋白質が群がってしまい、沈殿になってしまいました。これを防ぐには溶出液を受け取る容器に、最初から 数十 mM ぐらいの EDTA を入れておくとよいです(そして、酸化しやすい蛋白質には DTT も)。
もう少し高価な Ni-NTA packed カラムの説明には、DTT は 5 mM まで耐えられると書かれていました。そこで、今回の Ni-IDA でも同じだろうと勘違いし 1 mM DTT を入れたのですが、なんと Ni-IDA ではすぐにレジンがチョコレート色になってしまいました。これは Ni2+ が DTT で還元されて、金属のニッケルになってしまったためです。金属ニッケルは当然水には溶けませんので、ここに EDTA を加えようが何を加えようが元には戻りません。しかし、ネットを探すと過酸化水素でまた酸化すればよいと書かれていました。そこで 1% H2O2 を加えてみたところ、まるで魔法のようにレジンが真っ白に!その後は EDTA で古い Ni イオンを洗い流し、続けて 200 mM NiSO4 でエメラルドグリーンのレジンに回復させました。
一応 Ni-NTA HisTrap FF カラムでも、このような回復はできるとは思うのですが。Ni-NTA が 1 mM DTT に耐えられるとはいえ、それでも DTT が溶液に入っていると、カラムを抜けてきた溶液は少し黄色がかって見えます。これは、きっと還元された金属 Ni ではないかと思います。よって、時々、新鮮な NiSO4 を加えて上げると、長持ちするのかもしれません。
気がついたら、半年前にも Ni-カラムの記事を書いていました。よほど取り憑かれているようです。
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