J. Am. Chem. Soc. 2025 Apr 30; 147(17): 14519-14529.
N. Bolik-Coulon, P. Rößler, L. E. Kay
PMID: 40237318 DOI: 10.1021/jacs.5c01567
NMR-Based Measurements of Site-Specific Electrostatic Potentials of Histone Tails in Nucleosome Core Particles.
水溶液中で蛋白質などの分子がどのような静電ポテンシャルを帯びているかは、非常に興味深い問題である。たとえば、DNA 二重らせんに巻き付く「糸巻き」に相当するヒストンには、テール(tail)と呼ばれる柔軟な末端領域が存在し、そのアミノ酸組成からは正に帯電していると予想される。しかし著者らは、以下に示す方法を用いて、このテールが実際には DNA と相互作用しており、負に帯電していることを示した。
著者らは、Gd3+ イオンをキレートした 2 種類の化合物、Gd-DOTAM-BA(正電荷)および Gd-DOTA(負電荷)を準備し、それぞれを別個に試料に添加した。もしヒストンテールが正に帯電している場合には、負に帯電した Gd-DOTA とより強く相互作用するはずである。この場合、Gd3+ の常磁性緩和により、ヒストンテールの NMR 信号は顕著に減衰するだろう。一方、テールが負に帯電していれば、正に帯電した Gd-DOTAM-BA 添加時の方が、より強い信号減衰が観察されるだろう。
このアイデアはもともと岩原先生によって提案されたものであり、後に L.E. Kay や外山先生らが別の蛋白質系に応用し、その有用性を示した。
DNA との相互作用によりテールが負に帯電していることは明らかとなったが、その程度はテールの種類によって異なっていた。たとえば、H4 テールはそれほど強く負に帯電していなかった。これは、H4 テールが Gly 残基を多く含み、DNA と結合しにくいためではないかと推測されている(Gly が多数含まれていると、そのテールはかなりフレキシブルとなる。しかし、DNA が結合するとテールの自由な動きが制限される。自然界では自由度の低下=エントロピーの減少を避ける方に傾く。もちろん、静電的相互作用とのバランスの上でであるが)。