というのは、これが最も日本人泣かせの音と言われてきたためである。しかし、ある発音の本で調べてみたところ、それほど深刻にならなくてもよいようなのである。むしろ「L」の発音の方が難しく、気をつけないといけないらしい。
ここで、少し前置きが必要なので、それを先に下に記しておく。
しばしば「R」は「巻き舌」で発音すると書かれている。筆者は「巻き舌」とは、舌先を上側へ巻き上げる(反り返らせる)ことだと長らく思っていた。しかし、本当はそうではなくて「ルルルル」という連打するような音を出すための舌を意味するそうである。そこで、ここでは、次のように区別して書いていこうと思う。
反り上げ舌:舌先を上側へ巻き上げて(反り返らせて)発音する R。アメリカ英語によく出てくる。
ルルルル舌:「ルルルル」というように舌を震わせて連打する R。イタリア語、ロシア語などによく出てくる。なんと、これが本当の「巻き舌」というらしい。
それで実際に R はどちらで発音すればよいのかといえば、どちらでも良いらしい。英語で「ルルルル舌」なんて使ってもよいのか?と思ってしまうが、昔はそのように発音されていたらしく、間違いではないのだそうだ。さらにフランス語のように喉の奥の方で「ガラガラうがい」の要領で発音する R もある。
もちろん学生の頃は、思い切り舌を反り上げて「これがアメリカ米語の R だ!」という勢いで発音していた。しかし、ヨーロッパに行くと(彼らは英語のネイティブではないが)もっと落ち着いて発音しており、ドイツでは「ガラガラうがい」音を少し弱くしたような音だった。フランス語ほどに「ガラガラ音」にするとあまりきれいな音には聞こえないのであるが、ドイツ人が発音する「微かなガラガラ音」はきれいに聞こえる場合がある。
どこかの本に Erde(earth のドイツ語)の発音について書かれていた。16 世紀に書かれた書物の中に Erden という単語をどう発音するかが書かれていたとか。独和辞典にはカタカナ発音として「エアデ」などと書かれている。最近は R がかなり母音化してしまうのである(つまり r が「ア」音になる)。しかし、この R は G 音に近く「地面」から沸き起こってくる地鳴りのような音になると書かれていたような気がする(記憶があやふや)。Erde = 地面 と意味が重なっている。この発音がフランス語から入ってきたとしばしば書かれているのであるが、そうではなくて、中世ぐらいからすでにそのように発音されていたと書かれていたような気がする(自信がないので、また確かめてみますが、どの本に書かれていたのやら?)。
しかし、これを真似しようとすると出来なかった。レストランで赤ワイン Rotwein と言いたいが、赤 Rot のように単語の頭に R があると特に難しい。ドイツ人の発音でも「ホットワイン(熱いワイン)」か「ゴートワイン(山羊のワイン)」などと聞こえる場合がある。
いくらなんでも後者の「ゴートワイン」のように聞こえるわけはないだろうと思われがちであるが、実はこれは誇張でも何でもない。ドイツ語の話になってしまって申し訳ないが、この「R」の舌の位置は日本語のガ行を発音する時の位置に近いのだそうである。つまり、舌先が下に落ちている。これはガ行を発音する時の舌の位置と同じ。そして、舌の根本をもち上げて、喉の奥を狭くする。極端に狭くすると「G」音になってしまう。その時は「これでは反り上げ舌とは全く逆の舌先の位置ではないか」と思い、たいへん困ってしまった。しかし、また別の本には、これらは舌の奥を持ち上げるという点では共通しているのだとも書かれていた。そうなのかな?
いずれにしても、英語の「R」もガ行と同じ舌使いでやってみようと考えた。そこで、grow, green, grape など、G の直後に R が続く単語の発声を何度も練習した。舌をなるべく動かさないようにして GR の部分を発音するのである。なるほど、GR と音が続いていると、ドイツ人のような R の発音が簡単にできた。しかし、やはり Rotwein のように頭に R が来るとダメだった。
NMR の研究者でスイス人はたくさんいるが、ある有名人はものすごく「ルルルル舌」が目立つ。一度、お父様といっしょに来日されたことがあり、二人で母国語をしゃべっていたのであるが、その時も R の部分は全て「ルルルル舌」であった。まあ当然か。ミュンヘンより北部でそんな「ルルルル舌」を聞いたことがなかったので大変驚いたが、英語で発音する「ルルルル舌」もなかなかカッコ良かった。Related residual cross-correlated relaxation(関連する残余交差相関緩和)なんて、聞いてみるとすごい発音だった。しかし、ちゃんと L は正しい L の発音であり、R と L の音がひっくり返っていることはなかった。
そこで、GR 舌方式をちょっと諦め「ルルルル舌」を試すことにした。昔「(第二ではなく)第一外国語」がロシア語であったため、この「ルルルル舌」はそれほど不得意というわけではない。しかし、R がどこかに出てくるたびに「ルルルル舌」をやっていると大変疲れ、おまけに周りからは「あいつ、アホちゃうか?」という目で見られる始末。そこで、またまた調べてみると、この連打を一回だけにしてもよいとのことである。つまり、「ルルルル舌」を「ル舌」にするという意味。舌を口の上部に瞬間的に当て、一回だけ弾くのである。難しそうに見えるが、実は「カレー」の「レ」、「セロリ」の「ロ」と同じなのだそうだ。ここでびっくり。ずっと R の発音が難しいと思っていたら、なんと日本語の「ラ行」とそれほど変わらない音でも OK とは。これが上記で、R は適当に発音してもよく、むしろ L の方を注意しないといけないと書いた理由です。
もちろん、舌先が口内の上部に一回だけパチンとぶつかるので、英米のネイティブの発音とはかなり違ってくる。発音に厳しい人からすると、それはけしからんとなるのであろうが、書籍によると、昔は R をそのように発音していたのだとか。なので、同じ祖先をもつヨーロッパ言語(イタリア語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語など)でも「ルルルル舌」が使われているのだそうである。
これの欠点?「反り上げ舌」でかっこよく見せようと思っていたのに、「ルルルル舌」で馬鹿ではないかと見られることかな。。。。まあ、しかし「ル舌」ぐらいであれば、ちょっと下手なカタカナ英語かなというぐらいの見られ方で終わるでしょう。
書籍「脱・日本語なまり」(神山孝夫著)は名著です。かなり専門的な内容でありながら、素人にも分かるような書き方がなされています。そして、著者はアメリカ発音があまりお好きではないようですので、米式発音が好き!という人は見ない方がよいかもしれません。あるいは敵だと思って読んでみると「目から鱗」になるかも。これを読んでから他の発音の本を見てみると、その多くが米語発音に偏っていることが分かります。
上記で、アメリカでは R に反り上げ舌を使い、イギリスでは無視する(「ア」のように、ほとんど母音化する)ということを書いた。しかし、堀田隆一氏の書籍だったような気がするが、次のような事が書かれていた。アメリカでもニューイングランドや南部では "今の" イギリス英語のような R 音を使う。その理由は、昔、ロンドン周辺でその発音しない R が使われており、そこからの移民が多く住み着いたためだそうである。一方、スコットランドやアイルランドでは「反り上げ舌」が使われており、そこからの移民がアメリカ西部を開拓していった。よって、R 発音の違いは英米の違いというより、もともとのイギリスでの方言の違いに由来しているらしい。その意味では、アメリカ英語はむしろ保守的で、そのため広い国土の割には方言が少ないとのことです。なるほど、アメリカ発音の方がちょっと古式で今もそれを引き継いでおり、一方、イギリス発音はその後の変化も加わって今のような発音になったんだ。。。。
まとめると、「反り上げ舌」はアメリカに残る昔の(スコットランドやアイルランドの)発音で、これが英語のすべてだとは思う必要はない。よって、中学校で英語を習い始めて「反り上げ舌」をひたすら練習し、これができないと英語ダメ人間になるなどと思い煩う必要はない(英語ができない場合の日本人の劣等感は、外国人にはまず想像できない)。難しいようならば、日本語のラ行(「カレー」の「レ」)で OK。NHK のラジオ英語講座などは昔からアメリカ英語の発音を重視しており、少し偏りがある。それが英語だと思っていると、ヨーロッパではびっくりする。むしろ、重要なのは「L」の発音であり、カッコいい英語にしたいならば、こちらを徹底的に練習すべし。