これは3次元 HNCA スペクトルを二次元 HN/Ca になるように、15N 軸に沿ってプロジェクション(投影)したものです。HNCA と呼ばれる葡萄パン(日本製のまだスライスしていない1斤の食パン)を上から踏んづけると、床に圧縮された二次元パンができ、そこにつぶれた葡萄がいっぱい詰まったような状態になります。
横軸: 1HN 次元 縦軸: 13Ca 次元
スペクトルの右下の方に小さいピークがちょこちょこと見えます。いつもはあまり気にしないのですが、「もしかして、これは蛋白質が不純物のプロテアーゼなどで切断されてしまった跡か?」と嫌な予感がしてしまいました。二次元 1H/15N HSQC では、C 末端の 1H/15N ピークがスペクトルの右下の方に出てきます。測定途中にプロテアーゼで切られたりすると C 末端の数が増えて、このようなピークが複数個右下に生まれてきます。そこで、ついつい(スペクトルはまったく異なるのに)右下に目が行ってしまうのは悲しい性です。
ここで、これらのピークが横方向に2個でペアになっていることにすぐに気づくべきだったのですが、それに気づかず、「何だこれ?impurity か何かかな?」と不思議に思ってしまいました。
長らく自分の手で帰属をしていないと、このような簡単なことすらも分からなくなってしまうのですが、これは実は Asn, Gln の側鎖 NH2 の箇所のピークなのです。よって、ふたつの HN ピークが横方向にペアになって現れています。
きっと Asn の 13Cβ と Gln の 13Cγ が観えてしまっているのでしょう。もし 13Ca のスペクトル幅を CBCACONH のようにもっと広くとっていれば、判りやすかったのかもしれませんが、HNCA は 13Ca のみを検出しますから、普通は狭くとります。そこで、折り返しを観てしまったのでした。「41 ppm より高磁場の 13Ca なんてあったっけ?」とちょっと不思議に思っていたのですが、BMRB の統計値と比べてみると、まさに Gln(Cg), Asn(Cb) の側鎖ですね。
Cb (Asn) 38.7 ± 1.7 ppm
Cg (Gln) 33.8 ± 1.1 ppm
Asn の側鎖:Ca - Cb - CgO - 15Nd - 1H2
Gln の側鎖:Ca - Cb - Cg - CdO - 15Ne - 1H2
これは主鎖の場合と同じく、2J(NC) で磁化移動したピークを観ているのですね。確かにしばしば帰属の論文に書かれていますが、Asn/Gln 側鎖を帰属するには、CBCACONH が使えます。Asn を例にとると、ちょうど Ca と Cb がひっくり返ったように(Ca が Cb に、Cb が Ca に)見えるはずです。Gln ですと、Ca と思ったところに Cg が、そして Cb と思ったところに Cb が見えることになります。すみません、CBCACONH は Ca も Cb も正のピークですので、このようにはならないですね。例えば、Asn では主鎖でも側鎖でも同じような 13Ca, 13Cb が見えるはずです。しかし、HNCACB ですと、主鎖の Ca が正、Cb が負のようにフーリエ変換できますので、上記が当てはまります(側鎖では Ca が負、Cb が正になる)。
ここで、これらのピークが横方向に2個でペアになっていることにすぐに気づくべきだったのですが、それに気づかず、「何だこれ?impurity か何かかな?」と不思議に思ってしまいました。
長らく自分の手で帰属をしていないと、このような簡単なことすらも分からなくなってしまうのですが、これは実は Asn, Gln の側鎖 NH2 の箇所のピークなのです。よって、ふたつの HN ピークが横方向にペアになって現れています。
きっと Asn の 13Cβ と Gln の 13Cγ が観えてしまっているのでしょう。もし 13Ca のスペクトル幅を CBCACONH のようにもっと広くとっていれば、判りやすかったのかもしれませんが、HNCA は 13Ca のみを検出しますから、普通は狭くとります。そこで、折り返しを観てしまったのでした。「41 ppm より高磁場の 13Ca なんてあったっけ?」とちょっと不思議に思っていたのですが、BMRB の統計値と比べてみると、まさに Gln(Cg), Asn(Cb) の側鎖ですね。
Cb (Asn) 38.7 ± 1.7 ppm
Cg (Gln) 33.8 ± 1.1 ppm
Asn の側鎖:Ca - Cb - CgO - 15Nd - 1H2
Gln の側鎖:Ca - Cb - Cg - CdO - 15Ne - 1H2
これは主鎖の場合と同じく、2J(NC) で磁化移動したピークを観ているのですね。確かにしばしば帰属の論文に書かれていますが、Asn/Gln 側鎖を帰属するには、CBCACONH が使えます。Asn を例にとると、ちょうど Ca と Cb がひっくり返ったように(Ca が Cb に、Cb が Ca に)見えるはずです。Gln ですと、Ca と思ったところに Cg が、そして Cb と思ったところに Cb が見えることになります。すみません、CBCACONH は Ca も Cb も正のピークですので、このようにはならないですね。例えば、Asn では主鎖でも側鎖でも同じような 13Ca, 13Cb が見えるはずです。しかし、HNCACB ですと、主鎖の Ca が正、Cb が負のようにフーリエ変換できますので、上記が当てはまります(側鎖では Ca が負、Cb が正になる)。
今回は Bruker の標準パルスプログラムそのままで測定しましたので、折り返しのピークも正で出てきてしまいました。しかし、このような事も起こるので、たまには 13Ca 軸を 90, -180 位相でとった方がよいでしょう。あるいは、全てそのようにとらなくても、例えば帰属でペアとなるスペクトル HNCOCA だけでもとるとよいでしょう。
下図は HNCOCA の HN/Ca プロジェクションですが、右下に赤で点々とペアのピークが見えています。この HNCOCA に限っては 13Ca の軸を 90, -180 位相でとったので、これら負のピークは折り返しなのです。

なお、この Asn/Gln のピークは折り返っていて、さらに他の主鎖のピークよりもかなり小さいです。それは、Bruker の標準パルスプログラムでは、パルスプログラムの d21 が 1/(2J) に固定されており、理想的には NH2 基は観えないはずだからです。しかし、なにごとにも少し誤差がありますから、感度の高いスペクトルでは、このように小さいピークとして残渣が見えてしまうのです。そして、13Ca 次元のスペクトル幅は狭いために、側鎖が折り返ってしまう。さらに、90, -180 位相ではとっていないので、正のピークとして出てしまい、他の主鎖ピークと区別がつかなくなってしまうのです。

d21 を 5.5 ms からちょっと短めにすると、主鎖のピーク強度は少し落ちますが、今度は Asn/Gln 側鎖がはっきりと見えてきます。最近は大きめの蛋白質を重水素化して HNCA-TROSY などをとることも多いです。すると、普通の TROSY では NH2 は観えませんので、Asn/Gln のNH2 のことを忘れてしまうのですね。しかし、小さい蛋白質では、これら Asn/Gln の水素結合なども重要になってくるので、帰属をしておいた方がよいでしょう。ここで、水素結合を見ようとして HNCO-TROSY をとったりすると、また見えなくなってしまいますので、注意が必要です。
なお、この Asn/Gln のピークは折り返っていて、さらに他の主鎖のピークよりもかなり小さいです。それは、Bruker の標準パルスプログラムでは、パルスプログラムの d21 が 1/(2J) に固定されており、理想的には NH2 基は観えないはずだからです。しかし、なにごとにも少し誤差がありますから、感度の高いスペクトルでは、このように小さいピークとして残渣が見えてしまうのです。そして、13Ca 次元のスペクトル幅は狭いために、側鎖が折り返ってしまう。さらに、90, -180 位相ではとっていないので、正のピークとして出てしまい、他の主鎖ピークと区別がつかなくなってしまうのです。
d21 を 5.5 ms からちょっと短めにすると、主鎖のピーク強度は少し落ちますが、今度は Asn/Gln 側鎖がはっきりと見えてきます。最近は大きめの蛋白質を重水素化して HNCA-TROSY などをとることも多いです。すると、普通の TROSY では NH2 は観えませんので、Asn/Gln のNH2 のことを忘れてしまうのですね。しかし、小さい蛋白質では、これら Asn/Gln の水素結合なども重要になってくるので、帰属をしておいた方がよいでしょう。ここで、水素結合を見ようとして HNCO-TROSY をとったりすると、また見えなくなってしまいますので、注意が必要です。
なお、Asn/Gln 側鎖のピークは、1H/15N HSQC ではペアとなって見えますが、同時に個々のピークは雪だるまのような形に見えることが多いです。胴体の上に小さな頭が載っかっているような形。なぜ、そのような形になるのかは非常に面白いので、学生さんはじめ初めて知った人はちょっと考えてみて欲しいのですが、一応、答を書いておきます。
サンプルには 90% H2O/ 10% D2O などを溶媒として使っていると思います。すると、-15N-1H-(1H) が 90% ぐらい、-15N-1H-(2H) が 10% ぐらい生じます。両者は同じところにピークが出るわけではなく、少しずれてしまうのです。前者の 15N には 1H が付いているのに対して、後者の 15N には 2H が付いているためです。これを同位体シフトと呼んでいます。よって、雪だるまの頭:胴体 = 10 : 90 ぐらいになるはずです。もし、そのようなペアのピークを見つけたら、最初は拾わずに放置しておいた方がよいでしょう。というのは、MARS/Flya などの自動帰属ソフトにかけると、これが主鎖の連鎖帰属を邪魔してしまうためです。しかし、主鎖の帰属が終わったら、ちゃんと拾って、CBCACONH などを使って帰属しておきましょう。論文を書く頃に(帰属ラベルが空白だと恥ずかしいので)そこで慌てて帰属することになります。
また、ついでながら、15N 幅を少しだけ変えて 1H/15N-HSQC をとっておきましょう。ここでずれているピークがあれば、それは Arg の側鎖 ε の可能性が高いです。本来は 85 ppm ぐらいに出るのですが、あたかも主鎖のピークのように平気な顔をして、折り返って現れますので、時々間違えて拾ってしまい、主鎖帰属を混乱させます。
HSQC スペクトルの左下の方に Trp 側鎖も出てきます。昔は、13C/15N 標識体で 1H/15N-HSQC をとると、この Trp の芳香環 13C のデカップリングが不十分で(13Ca, 13Co 選択的パルスを用いるため)、このピークだけ少しブロード化して区別がつきました。しかし、最近は Chirp のような adiabatic pulse で広く 13C をデカップルするものですから、そのような現象も見なくなってしまいました。
たまに 100 残基ぐらいの蛋白質の帰属を始めると、懐かしい現象に再会し、いろいろと楽しくなるのですが、NMR で「これは側鎖かな?」などと試案しているうちに、Cryo-EM で構造が出てしまう(しかも、ドメインではなく intact で、それも複合体で!)時代になってしまいました。さらに構造だけに限って言えば AlphFold でかなり正しい構造が出てしまいますので、NMR で構造を決定するというプロセスは、もうあまり重要ではないのかもしれません。
しかし、こと IDP/IDR (天然変性) や創薬で脚光を浴びている環状ペプチドなどとなると、なかなか Cryo-EM / AlphaFold でというわけにもいかず、NMR に頼ることになります。その際には、側鎖も含め、ほぼ全原子の NMR 帰属が必要になってきますが(特殊なアミノ酸が入った創薬では非標識!)、その経験と技術をもつ人が、もはやお年寄りになってしまいました。
0 件のコメント:
コメントを投稿