2013年4月19日金曜日

In-cell NMR の out-cell 測定

先々週は嵐の週末でした。土日の両方まで雨に降られれてはご免と、土曜日は必死に仕事を片付け、なんとか久しぶりの日曜日という休日を得たのでした。締め切りがすでに超えてしまった書類も無いわけでは無いのですが、そこは何とか。。。久しぶりに休みをとると、どうやって過ごしてよいのか分からなくなってしまい、しかたなく朝から下の論文を読み始めましたが、これがなかなか面白いのです。

Latham MP, Kay LE. (2013) Probing non-specific interactions of Ca(2+)-calmodulin in E. coli lysate. J. Biomol. NMR 55, 239-247.

Latham MP, Kay LE. (2012) Is buffer a good proxy for a crowded cell-like environment? A comparative NMR study of calmodulin side-chain dynamics in buffer and E. coli lysate. PLoS One 7, e48226.

もしかして、L. E. Kay さんまでもが In-Cell NMR を?と初めはびっくりしたのですが、どうもそうではなく、ちゃんと精製した CaM(カルモジュリン)蛋白質に大腸菌の中身(菌溶解物)を振り掛けて測定しているのです。結論を先に書いてしまいますと、菌溶解物の中には CaM と(非特異的に、瞬間的に)相互作用できる蛋白質やペプチド断片が多くあるらしく、それらが CaM と付いたり離れたりを繰り返すのです。したがって、この交換(Rex)による横緩和(R2=1/T2)の促進が 1H-CPMG 実験などで観測されたのでした。ちなみに、この CPMG 実験ではミリ秒程度の動きが Rex という形で観測されます。

面白いのは、この CaM に最初から相互作用の相手であるペプチド(smMLCK(p))をくっ付けておくと、そのような Rex は観測されないとの事です。この相手方ペプチドとの相互作用の解離定数は 1 nM 程度との事ですので、もう一度付いたら二度と離れないというぐらいにたいへん強いのです。一方、大腸菌溶解物の中の蛋白質(ペプチド)との非特異的相互作用では、強くて 200 μM 程度との事ですので、CaM の二次元スペクトルをかなり劣化させてしまうという程度の強さでしょうか。

ところで、上記の CaM とは、すでに Ca++ を配位させた Ca++CaM の事なのです。apo か holo かを区別せずにこの2報を読んでいくと、途中で頭が混乱してしまいました。

CaM に4つの Ca++ を配位させると CaM の構造が大きく変わり、疎水コア内部にあったメチル基が表面に飛び出してきます。そこで、各種のペプチドと相互作用ができるようになるわけです。ですので、Ca++ の付いていない apo 型で測った 1H-CPMG 実験では Rex の大きさは半分程度になってしまいます。そして、それらは Ca++ の脱着に因る Rex なのだそうです。

さて、この実験では、メチル基を観測しています。普通は 15N-1H を観る場合が多いのですが、すごく大きな蛋白質であったり、今回の lysate のようにドロドロとした環境では、たとえ 1H-15N TROSY を使っても観えない場合があります。そのような時は、Ile, Leu, Val, Met のメチル基だけを 13C-HDD に標識し、その他の箇所は 12C, 2H に標識する方法があります。大腸菌発現系において、そのような前駆体を入れるのです。

では、何故 13C-HDD であって、13C-1H3 を使わないのか?後者の方が methyl-TROSY が使えてもっと良いのでは?と思ってしまいます。論文によると、1)13C-HDD の方が 1H-CPMG が解析し易い(13C-1H の2スピン系としてモデルを組めますよね)2)2H の緩和も観られる(2H の緩和は四極子緩和のため非常に速く、Rex にほとんど邪魔されない)3)lysate の中にある大量の 13C-メチル基(もちろん、natural-abundance です)から区別できる。確かに 2H で磁化移動を edit すれば良いですね。なるほど。。。感心です。

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