1)メチル基どうしの NOE ネットワークを利用する。ソフトが幾つか出ています(FLAMEnGO)。
2)金属などをつけて常磁性緩和促進 PRE、pseudo-contact-shift を利用する。
3)ドメインに分割していく。
4)頑張って変異体を作る。
2)金属などをつけて常磁性緩和促進 PRE、pseudo-contact-shift を利用する。
3)ドメインに分割していく。
4)頑張って変異体を作る。
(1,2)は X 線結晶構造を利用することになります。(3)はドメインにばらばらにしても unfold しないような蛋白質に巡り合う幸運が必要でしょう。4)がこれまた大変です。
Religa, T.L., Ruschak, A.M., Rosenzweig, R., and Kay, L.E. (2011) Site-directed methyl group labeling as an NMR probe of structure and dynamics in supramolecular protein systems: applications to the proteasome and to the ClpP protease. J. Am. Chem. Soc. 133(23), 9063-9068. doi: 10.1021/ja202259a.
この論文では「I, L, V, M, A, T などの検出部位をたくさん作ることももちろん有効ではあるが、たった1個、重要な箇所を検出するだけでも問題が解決する場合がある」と書かれています。その1つの方法として、メチル基を目的の場所にくっ付ける方法を提案しています。他にも、ちょうど Histon-tail の化学修飾のように、13C メチル基を Lys 側鎖に付ける方法もあります(服部さん、大木さんの論文)。
この論文では、メタンチオスルフォン酸-S-メチル(MMTS)を蛋白質に加え、Cys の側鎖にくっつける方法が提案されました。昔からいろいろな生化学の実験(14C 標識体)で使われてきた方法ですが、今回は MMTS を 13C で標識して大きな蛋白質にピンポイントで付けて、その箇所(MTC, S-MethylThioCysteine)を観測することを目的としています。MMTS が Cys にくっ付いた後は Met とよく似た化学式になります。違いは、Cg が Sg になる、S-S が入るので動きが少し硬くなる、MTC の 13C-1H3 のピークは Met の 13C-1H3 ピークよりも左下に来る(1H/13C ともに低磁場側に移動)とのことです。
Met は他の I, L, V などと比べ、もともとフレキシブルです。そのため、ピークの線形がシャープで、構造交換や相互作用交換によるピークのブロード化を受けにくいという特徴があります。Met を 13C で標識する方法もかなり有効でよく見かけますが、試薬である [13C]-Met は重水素化されていない場合が多く、1Hb, 1Hg などにプロトンが残ってしまい感度を下げてしまうという欠点があります。メチル基の 1H スピンと 1Hb, 1Hg スピンとが spin-diffusion を通して flip-flop してしまうため、methyl-TROSY 効果がなくなるためです。具体的には M9 重水培地 1L に 100 mg の [13C]-Met を IPTG によるインダクションの1時間前に入れます。したがって Met の側鎖には 1H が残ってしまいます。
著者らは、この方法を 180 kDa のプロテアソーム(α7-ring のみ)に適用しました(温度 25 度)。蛋白質の母体を重水素化すべきかどうかについてですが、もし重水素化しない場合には、メチル基の TROSY 効果が落ちます。彼らの分析によると、溶媒露出度 30% のメチル基ではピーク強度が 1/2 に、溶媒露出度 4% のメチル基ではピーク強度が 1/4 に落ちたそうです。後者では周りにたくさんの 1H があるため、メチル基の 1H スピンが周りの 1H スピンとフリップフロップを起こしてしまい、methyl-TROSY 効果が落ちるのです。また、いわゆる 1H-1H 双極子相互作用による緩和も増してしまいます。さらに埋もれているということは、フレキシビリティーも落ちます。とは言うものの、もう一つの下記に紹介した論文のように、重水素化蛋白質の大量調製が難しい場合には、仕方なく 1H 化蛋白質を使っても観測がなんとか可能であれば、これはすごいと思います。
昔、常磁性金属を蛋白質に付けて静磁場中で配向させるため、メタンチオスルフォン酸-EDTA を蛋白質のシステインによく反応させました(懐かしい、何十年前?のことやら)。反応効率はかなり高かったです。この論文でも、アミコンなどの限外濾過を使って、まずは蛋白質の溶媒から DTT などの還元剤を抜き、それから 1.5 倍等量の試薬を加えただけです。ちゃんと露出した Cys にだけ反応したようです(内部に埋もれた Cys はそのままだった)。ここでは 4度で一晩も反応させていますが、どうも露出した Cys どうしがジスルフィド結合を形成して凝集してしまうことを避けるためのようです。確かに Cys への変異体でもっとも注意しないといけないことは、分子間(サブユニット間)の非特異的なジスルフィド結合です。精製途中では大量の DTT を入れ続けることによって、これを防げるかもしれません。しかし、いざ MMTS と反応させる際には、DTT を除かないといけません。そこで、さらに EDTA も加え(反応の触媒となる金属をキレートする)、脱気して酸素をできるだけ除いています。
それでも 40 度で一晩測定すると、1割ほどの MMTS が外れ、代わりにサブユニット間でジスルフィド結合を組んだ二量体が外れてきてしまったようです。このような反応は、S-H と S-S の間の交換で起きますので、ここのプロテアソームのゲート部分のようにフレキシブルで S-S が7個もお互いに寄り集まり合っている場合には起きやすい、普通の蛋白質のように MTC の濃度が局所的には高くないケースではそれほど問題にはならないだろうと書かれています。ちょっと立体障害が問題となりそうですが、[13C]-N-ethylmaleimide を使えば、簡単には外れないそうです。
ちなみに下記のもう一つの論文は、まだ出来立てのほやほやですが、重水素化されていない蛋白質で [13C]-MTC を検出しています。ナノディスクに入れての分子量が 240 kDa とのことです。もちろんドメイン同士のフレキシビリティーも考慮に入れないといけませんが、かなりの高分子量でも観測が可能になってきました。
Galiakhmetov, A.R., Kovrigina, E.A., Xia, C., Kim, J.P., and Kovrigin, E.L. (2017) Application of methyl-TROSY to a large paramagnetic membrane protein without perdeuteration: 13C-MMTS-labeled NADPH-cytochrome P450 oxidoreductase. J. Biomol. NMR doi: 10.1007/s10858-017-0152-3.
ちなみに「(日本生化学会編)新生化学実験講座 タンパク質 IV(東京化学同人)」には、MMTS 試薬を蛋白質の 0.5〜4.0 倍モル等量いれて、4度で 30 分間反応させると載っています。その後、ゲル濾過、限外濾過へと続いています。DTT や 2-メルカプトエタノールを作用させると外れたとのことです。
ちなみに「(日本生化学会編)新生化学実験講座 タンパク質 IV(東京化学同人)」には、MMTS 試薬を蛋白質の 0.5〜4.0 倍モル等量いれて、4度で 30 分間反応させると載っています。その後、ゲル濾過、限外濾過へと続いています。DTT や 2-メルカプトエタノールを作用させると外れたとのことです。
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