2017年12月21日木曜日

細胞核の作り方


Chaikeeratisak V, Nguyen K, Khanna K, Brilot AF, Erb ML, Coker JK, Vavilina A, Newton GL, Buschauer R, Pogliano K, Villa E, Agard DA, and Pogliano J. (2017) Assembly of a nucleus-like structure during viral replication in bacteria. Science 355(6321), 194-197. doi: 10.1126/science.aal2130.

バクテリオファージが細菌に感染し、その中でまるで核のような構造物を作ったそうです。そのファージは、感染するとその「核もどき」の中に自身の DNA を閉じ込めました。さらに、チューブリンのような蛋白質も作って、核もどきを宿主細菌の中央付近に移動させます。核もどきは「蛋白質」で出来ており今の核膜とは成分が違いますが、その中で DNA 複製、組み換え、転写を行うそうです。そして、キャプシド蛋白質などの翻訳は核もどきの外側、つまり宿主の細胞質内で行います。この様子は今の真核生物の細胞核にそっくりです。この論文の題名で YouTube に動画も出ています。

今の核膜は小胞体から出来ているとされていますが、そもそも核膜がないと、たいへんなことになってしまいます。真核生物の mRNA はスプライシングを受けてイントロン部分が除かれる仕組みになっています。スプライソソームによるスプライシングは大変時間のかかる過程だそうで、翻訳がだいたい1分以内で終わるのに対して、スプライシングは数分も時間がかかるそうです。これを核膜で囲まれた領域で行わないと、リボソームがすぐに(premature 状態の mRNA のまま)翻訳を開始してしまい、そのためイントロン部分までをも翻訳しようとしてしまいます。

細胞内共生説

古細菌(or それに似た細菌)に好気性の α プロテオバクテリアが入り後にミトコンドリアに、さらに後でシアノバクテリアが入り後に葉緑体になったとされています。

真核生物のスプライシングは、ミトコンドリアに見られる自己スプライシング型イントロンと原理的なところで似ています。古細菌が今のミトコンドリアを内部に共生させた時に、ミトコンドリアから、あるいはそれが古細菌の中で死んだ時に、ゲノム断片がたくさん細胞内に溢れました。そこで、それらの中の可動性イントロンが宿主の DNA に水平伝播しました。「生命, エネルギー, 進化(ニック・レーン 著,‎ 斉藤隆央 訳)」では、宿主のゲノムが大量の可動性イントロンに襲われたと表現されています。また、ヒトの DNA の 40% は、過去に感染した RNA ウィルスのレトロトランスポゾンだとも言われています。

そこで、それらのイントロンを除くためのスプライシングが確実に終わってから翻訳が始まるように、核膜で自身のゲノムを囲むようになったのですが、問題はどのようにして核膜ができていったかです。「生命, エネルギー, 進化」では、小胞体膜が自然にゲノムを囲んでいったと推測しています。一方「生物はウイルスが進化させた -巨大ウイルスが語る新たな生命像-(武村政春 先生著)」では「細胞核ウイルス起源説」を押しています。

細胞核の起源として、ウィルスを挙げています。ある種のウィルスは宿主細胞内にウィルス工場を作りますが、それが真核細胞の核と様子がそっくりなためです。たまたまウィルスに襲われてウィルス工場の中に自分自身の DNA が入ってしまった細菌のみが、スプライシングと翻訳を分けることができ、生き延びていったと推測しています。特にポックスウィルスの場合は、ウィルス工場の敷居が宿主の小胞体由来だそうで、ますます細胞核にそっくりです。

また「生物はウイルスが進化させた」には非常に面白いことが書かれていました。ウィルスを配偶子に見立てている点です。ウィルスは宿主に感染し、その DNA or RNA を宿主のゲノムに紛れ込ませてしまいます。同じように精子も卵に入り、その両者の DNA を融合させます。ウィルス感染した宿主細胞はせっせと蛋白質を作って新たなウィルスを作り、それらが拡散していきます。同じように、生物も成長してからまた新たな配偶子を作って子孫を増やしていきます。この相似ははじめは偶然あるいは無理やりのように見えます。しかし、最近 tRNA やアミノアシル tRNA 合成酵素の遺伝子まで(不完全ですが)持った巨大ウィルスが発見され、これらのウィルスは(翻訳はしないという)これまでのウィルスの定義を覆しかねません。ウィルスとは何か?を考えた時に、もしかすると、配偶子の祖先であったり、細胞核の祖先である可能性は高いのではないかと思わせる一冊でした。その証拠を本から抜粋していくと大変な量になってしまいますので「何を寝ぼけたことを言っているのか?」と思われる方は是非ご一読お勧めいたします。

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