最近は 15N, 13C だけでなく 1H の CEST も出てきました。ここで問題となってくるのは、プロファイルに現れた dip(オフセットを横軸にピーク強度を縦軸にとったプロファイルで、ピーク強度が落ちている箇所)が、果たして本当の構造交換によるものなのか?それとも NOE によるものなのかの区別です。これは高分子の NOESY における NOE 交差ピークが、交換によるピークと区別がつかないことと似ています。しかし、これには良い対策がすでに出ています。一つの 1H 核スピンを2つに分けて区別するのです。つまり、1H-15Nαと 1H-15Nβです。15N 核スピンの T1 が長く、Tex の間は α状態とβ状態が維持されるのであれば、この方法が使えます。構造交換では、1H-15Nαどうしで交換します。同じように1H-15Nβどうしでも交換します。まさか、基底状態の時は 15Nαであったのに、励起状態に移った時には 15Nβになってしまうということはないでしょう(15N T1 が十分に長ければ)。そこで基底状態の 1H/15N を 15N のそれぞれのスピン状態 α or βに応じて別々に測定します(spin-state selectively)。1H/15Nα の CEST における dip と1H/15Nβ の CEST における dip は別々のところ(ちょうど 1J だけ離れた位置)に現れるはずです。それに対して NOE の方は、近くの 1H が saturate されれば、双極子間相互作用を通して対象となる1H に NOE が移ります。その際、donor と acceptor の 1H に付いている 15N が α 状態であろうとβ状態であろうと全く関係ありません。よって、1H-15Nαも 1H-15Nβも同じ dip を持っているはずです。以上より、15N 核スピン状態に選択的に測定して得た CEST プロフィールをお互いに引き算すると、NOE からの寄与はキャンセルされ、本当に構造交換によって生じた dip のみが残ることになります。
Yuwen, T., and Kay, L.E. (2018) A new class of CEST experiment based on selecting different magnetization components at the start and end of the CEST relaxation element: an application to 1H CEST. J. Biomol. NMR. 70(2), 93-102. doi: 10.1007/s10858-017-0161-2.
この論文は更にそれを発展させたものです。15N スピン状態選択的に測定するのは面倒であるので、いっそのこと 2IzSz を測定してしまうという方法です。確かに、HzNa - HzNb = 2HzNz となります。それに伴うアーティファクトについて詳しく書かれています。一つは TROSY 効果により二つのダブレット HzNa, HzNb に強度差が起きることです。その強度差は新旧どちらの方法でも起こるのですが、上記のスピン状態選択法の場合、HzNa, HzNb それぞれで reference(saturation 無し)を測り、引き算をする前にこの reference により規格化してしまいます。そのため、TROSY 効果による強度差がキャンセルされます。それに対して新しい方法では、引き算を自動的にしてしまってから(つまり、2HzNz を検出してから)reference で規格化します。そのため、引き算による完全なキャンセルが出来なくなるのです。しかし、論文によると、それは大したアーティファクトにはならないとのことです。むしろ、two-spin order ではなく in-phase である 15Nz が検出に入ってくることの方が大きいそうです。一応、それを防ぐために 15N に 180 度パルスを偶数発打つ方法も紹介されています。これにより TROSY 効果(1H CSA/1H-15N DD)もキャンセルされ、15N in-phase もかなりキャンセルされます。ただし、Tex の実質的効果は半分になってしまいます。おそらくそこまでしなくても問題はないでしょう。
新旧の方法を比べると、特に 1H/13C HMQC-TROSY の場合は新しい two-spin order を検出する方が感度が高くなります。
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