またまた前回のブログでは、図を出さずに文章ばかりで埋めてしまいました。そこで、同じような内容を今回は図付きで。
この一次元のスペクトルは、A ←→ B という二つの状態の間で交換が起こっている様子を示しています。A, B は、具体的に立体構造が換わって化学シフトが変化している状態と考えてもよいですし、あるいは、化学結合が生成消滅したりしている状態と考えても構いません。要は、化学シフト値が変化することが重要です。この化学シフト値をそれぞれ 70, 30 Hz とします。普通は ω(rad/s) で表しますが、ここではあえて ν(Hz) で表すことにします。当然、これを ppm 値に変換すると、NMR の静磁場 B0 の大きさによってその ppm 値は変わります。
さて、左右ともに真ん中の図が kex (1/sec) = Dw (rad/s) / root(2) の条件の時のスペクトルです。たいへんブロードになっており、これぞ intermediate-exchange と言えるでしょう。さて、左上の図は、√2 を消した時の条件です。そのため、少しだけ fast-exchange に寄りますので、ピークがシャープになっていることが分かります。一方、左下の図は rad/s ではなく、Hz をそのまま使った時のスペクトルです。先ほどの図よりも 2*pi = 6 倍ほど slow-exchange の方に偏りますので、すでにピークが二つに分かれています。
右の上と下の図は、もっとも intermediate-exchange の条件から kex を 10% だけそれぞれ fast-, slow- に偏らせた時のスペクトルです。よく見ると、右下のスペクトルがもっともブロードです。しかし、これはダブレットが繋がったものですので(勝手に)除くことにしましょう。
これらのシミュレーションでは、A と B がそれぞれ 50:50 にある時の状態を想定しています。もし、fa (fb) が 50% から離れた状態では少し様子が変わって来るでしょう。いずれにしても、kex は /sec 単位であるが、比較の対象となる化学シフト値は rad/s 単位であること、その化学シフト値の差 (rad/s) を√2 で割った値と kex とを比べることが重要だと言えそうです。
なお、同じ試料を大きな NMR に持っていくと、全体的に slow-exchange の方向にずれることに注意しましょう(ppm 値では同じでも、rad/s, Hz で表した化学シフト値の差は増えるから)。ですので、もともとが少しだけ fast-exchange の場合に、超高磁場 NMR で測定すると、運悪く intermediate-exchange に被ってしまうこともあり得ます。「400MHz では確かに観えたピークが 800MHz では消えた!」などという一見?な現象もこれで説明がつきます。次回は、「Kd 値を求めるために滴定をすると、なぜ、滴定たけなわの肝心なところだけでピークが消えるの?」について触れたいと思います。
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