2013年9月20日金曜日

にぬきはできるだけ避けたい その2

なんと前回の内容にコメントが2件も寄せられました(ご覧になられているのが "Blogger" 側の設定でしたら、コメントと書かれた箇所をクリックしないと、このコメントの内容が見られないようになっている場合がありますので、ご注意ください)。このコメント内容に全く賛成です(おかげさまで、今日書くべき内容が無くなってしまいました ..... )。どうもありがとうございました。

確かに DTT の酸化(劣化)は、温度が高いと速いように思います。そこで、NMR 試料に加える重水素化 DTT などは、1 M ストックを 10 uL ずつぐらいに分注して冷凍しておきます。目的の蛋白質試料が 300 uL あるとすると、そこに重水素化 DTT を 3 uL 入れると、DTT の濃度が 10 mM の濃度になりますね。

同じ方から、TCEP の方が酸化しにくいという情報も頂きました。なるほど、Wikipedia には DTT や β-メルカプトエタノールより良さそうと書かれています。今度使ってみましょう。重水素化 TCEP はあるのかな?

それにしても、100 アミノ酸程度の DNA の合成の費用が 25,000 円とは驚きです。2,000 年頃でしたか、.... 知り合いの人から 200 アミノ酸ぐらいの DNA の合成で百万円以上かかったと聞いたことがあります。確か human からサブクローニングした cDNA でしたので、発現が悪く悪戦苦闘していたようです。レアコドンの tRNA を供給するようなタイプの大腸菌を用いても、あまり効果が上がらなかったそうな。そこで、思い切って DNA の全合成をしました。その時に、もちろん大腸菌のコドン使用頻度(codon-usage)に最適化して合成しました。すると、今度は発現し過ぎて困るという事態に。。。培養の時に温度を下げたり、誘導物質の IPTG をちょっとにしたりして、なんとか発現し過ぎを抑えたそうです。あまり慌てて発現させると、folding が追い付かないのか、せっかく発現した蛋白質が封入体(inclusion-body)に行ってしまうのですね。

その時に Cys を Ser に替えて DNA を合成しておけば良かったのですが、すでに出ていた結晶構造を見る限り Cys は中に埋もれているので大丈夫だろうとの憶測で、Cys のまま DNA を合成しました。すると、調製した直後は NMR ピークがなんとか観えているのですが、1日経ち、2日経ち、... とどんどんピークが消えて行くのです。結局、主鎖の帰属用の3次元スペクトルをとると、全体の半分ぐらいしかピークが現れず、5年間かけても帰属が半分強までしか達成できませんでした。当時としては世界最高記録の 1H 感度の機械で測定したのですが。。。

結局、その試料は当分の間忘れ去られることになったのですが、ある時、蛋白質試料の安定化を研究している人からテスト用に使いたいという申し出があり、お渡しすることになりました。真っ先に行ったことは Cys から Ser への置換だそうです。すると、どうした事でしょう。それまで観えなかったピークがわさわさと、土筆(雨後の筍?)のように生えてきたではないですか!しかも、1年放っておいても同じ!結局8年目にしてほぼ 100% の帰属が達成されましたが、もっと早く Ser への置換体を作っておけば創薬 NMR 関連でちょっとした成果が出せたかもしれず、悔やまれます。

この結果は Cys が構造の中の方に埋まっていても油断はできないということを示しています。蛋白質は時々ガバッと開いては閉じるといった breathing-motion(呼吸運度?)を伴っていると言われています。その時に一瞬ですが Cys が露出してしまうのかもしれません。もし、運悪くすぐ隣に同じように開いた蛋白質分子がいると、それと disulfide-bond を作ってしまうのでしょう。こうして出来た二量体では、その disulfide-bond が中に埋もれてしまい、なかなか DTT などの還元剤が近付くことができません。そのため、disulfide-bond が還元されて切れるよりかは、新たに形成されていく方が優勢になってしまい、さらに下手をすると、どんどん凝集が進んで多量体へと変貌してしまうのかもしれません。

このような酸化還元反応は本来は可逆のはずですので、原理的には新鮮な DTT を大量に入れておけば大丈夫のはずです。ところが「にぬき」はどんなに頑張っても「生卵」に戻せないのと同じように、disulfide-bond そのものが中に埋もれて、そこに還元剤が辿り着けないような状況になってしまうと、事実上「不可逆」になってしまいます。

それにしても、コメント2のコメント「また、最初から蛋白質内のシステインを無くしておけば、のちのち DOTA やら CPP やらを導入しては楽しむ、のが簡単になります」→ このような実験を「楽しめる!」人となると、誰?思い付く人数が限られてきてしまう ... 。

DOTA:1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N',N'',N'''-四酢酸
CPP:膜透過性ペプチド(cell-penetrating peptide)

N2 ガスを満たした袋に NMR 試料管を入れて冷蔵庫に入れておく。→ これ名案ですね!

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