さて、ダイナミクスが関連したアロステリック効果を解析した論文として、tetracycline repressor(TetR)を採り上げたいと思います。
Reichheld, S.E., Yu, Z., and Davidson, A.R. (2009) The induction of folding cooperativity by ligand binding drives the allosteric response of tetracycline repressor. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. Dec 29, 106(52), 22263-22268.
この同じ号の 22035 ページに、分かり易い解説と図が載っていますので、この図を見ながら論文を読まれると理解し易いでしょう。
リプレッサーは、DNA のオペレータ領域にくっ付く蛋白質で、mRNA への転写を抑えてしまいます。教科書に載っているように、さまざまなリプレッサーがありますが、今回はそのうちの一つです。
リガンド(抗生物質)であるテトラサイクリン(Tc)が無い状態ですと、この TetR の DNA 結合領域はフレキシブルで、DNA にちゃんと相互作用することができます。ここの箇所は感覚的に?と思われるところでしょう。というのは、オペレーターDNA 領域へは特異的に相互作用する必要があります。ところが、TetR のフレキシブルな領域がこの DNA の配列をちゃんと認識するという点が不思議なところです。
生物学的には、テトラサイクリンが菌体内に増えてくると、この TetR が DNA のあるオペレータ領域から外れてしまいます。すると、TetA と呼ばれる蛋白質がたくさん発現してきます。この TetA は膜蛋白質でテトラサイクリンを細胞外へ排出する役目を持っています。
Tc が TetR にくっ付くと、この Tc 結合部位と DNA 結合領域との間に立体構造における協同性が生じ、この DNA 結合領域が rigid(安定状態とも書かれています)になります。その時に DNA を掴む二つの手の幅が major-groove の幅よりも広くなって固定されてしまうため、DNA にもはやくっ付けなくなってしまうのだそうです。ちなみに TetR はホモ二量体で、それぞれに DNA を掴むための手が一本ずつありますが、両手でないとうまく掴めないようです。
Tc が付く場所と DNA 結合領域とはもちろん距離的に離れています。ただし、両者は疎水性残基のコアを通して結ばれています。もし、Tc が無いと、この疎水性コアのパッキングがゆるゆるになってしまい、ちょうど車のクラッチが外れたような状態になります(エンジンを回せど車輪は回らない)。一方、Tc が付くと、緩くなっている原因の隙間が埋まり(オイルサーディンがあの缶かんの中に隙間なくびっしりと詰まった状態に同じ)、クラッチが繋がったような状態となって、遠く離れた DNA 結合領域にまで構造的な(ダイナミクス的な)変化が伝わるのでしょう。缶の中から真ん中辺りに寝ているミニサンマを一匹取り去ってしまうと、もう右端のサンマを突っついても、左端のサンマは動かないのと同じですね。
少し前に MWC-モデルをご紹介しました。そこでは R 状態と T 状態の2状態の間で平衡があり、effector 分子が付くと、その平衡がどちらか(その effector 分子がくっ付きたい方)に偏るのでした。今回の TetR の例はこれとは全く異なるようにも見えますが、実際にはリガンドが無いフレキシブルな状態(多形状態)を T 状態に、リガンドが付いた静止状態を R 状態に置き換えると似た現象を示しているのかもしれません。ただし、リガンドが付いていないアポ状態が disordered(特定の構造を採らない、つまり、多形でフレキシブル)だと、この allosteric 効果が大きくなることは、少し前の HT-モデルで示しましたのでご覧ください。
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