2021年7月15日木曜日

ニッケルカラム

先ほど、学生から Ni カラムがチョコレートになってしまったとの報告が。。。この現象は本当に久しぶりでした。見たのはもう 25 年ぶりでしょうか?

Immobilized-metal affinity chromatography (IMAC) 用の樹脂(レジン)には、nitrilotriacetic acid (NTA) と iminodiacetic acid (IDA) の主に2種類があります。どこかで画像検索していただくと分かりますが、両者は金属を配位する部位の化学構造が微妙に異なります。

IDA の方が安価ですが、蛋白質の精製度は少し落ちます。また、金属のキレート度合いも少し低めですので、DTT, EDTA などの溶液に弱いという欠点があります(金属を配位している結合の数が、IDA が3本に対して、NTA は4本)。しかし、金属を付けたり外したりの操作が楽ですので、頻繁に NaOH でカラムを洗っては再生することもできます。そのため、大量のサンプルをまずは粗精製したいという場合には、IDA の方が向いているでしょう。

今回は、大腸菌を超音波破砕した後に、遠心の上清を 400 mM NaCl 存在下で DEAE にパスさせました。これでかなりの核酸成分が除かれ、それ以降の精製が楽になります。核酸がたくさん残っていると、その後のカラムに蛋白質がくっつきにくかったり(その結果、パスしてしまったり)、溶出ピーク(Abs 280 nm)が変な形になりやすいです。そして、最終的には、核酸のコンタミにより結晶になりにくいという特徴もあります。

一回目の精製では、核酸を除いたサンプルを DTT なしで Ni-chelating カラムに通したのですが、蛋白質の溶出と同時に大量の沈殿が出てしまいました。これは、Ni-IDA オープンカラムを作ったばかりであったためです。その新しいレジン(Chelating sepharose fast flow)には、最初は金属が何も付いておらず、自分で好きな金属(コバルトイオン、ニッケルイオンなど)を付ける仕様になっています。そこで、NiSO4 溶液をレジンに通して Ni をキレートさせました。その時、400 mM イミダゾールで洗って余剰の(キレートされていない)Ni イオンを洗い流しておくべきだったのですが、それを怠ったために、蛋白質の溶出時に大量の Ni がはずれてしまったようです。その結果、溶出液ではその Ni に His-tag 蛋白質が群がってしまい、沈殿になってしまいました。これを防ぐには溶出液を受け取る容器に、最初から 数十 mM ぐらいの EDTA を入れておくとよいです(そして、酸化しやすい蛋白質には DTT も)。

もう少し高価な Ni-NTA packed カラムの説明には、DTT は 5 mM まで耐えられると書かれていました。そこで、今回の Ni-IDA でも同じだろうと勘違いし 1 mM DTT を入れたのですが、なんと Ni-IDA ではすぐにレジンがチョコレート色になってしまいました。これは Ni2+ が DTT で還元されて、金属のニッケルになってしまったためです。金属ニッケルは当然水には溶けませんので、ここに EDTA を加えようが何を加えようが元には戻りません。しかし、ネットを探すと過酸化水素でまた酸化すればよいと書かれていました。そこで 1% H2O2 を加えてみたところ、まるで魔法のようにレジンが真っ白に!その後は EDTA で古い Ni イオンを洗い流し、続けて 200 mM NiSO4 でエメラルドグリーンのレジンに回復させました。

一応 Ni-NTA HisTrap FF カラムでも、このような回復はできるとは思うのですが。Ni-NTA が 1 mM DTT に耐えられるとはいえ、それでも DTT が溶液に入っていると、カラムを抜けてきた溶液は少し黄色がかって見えます。これは、きっと還元された金属 Ni ではないかと思います。よって、時々、新鮮な NiSO4 を加えて上げると、長持ちするのかもしれません。

気がついたら、半年前にも Ni-カラムの記事を書いていました。よほど取り憑かれているようです。

2021年2月7日日曜日

Ni2+ ion の impurity

ヒスタグの話です。

Glover, S.D., Tommos, C. (2019) A quick and colorful method to measure low-level contaminations of paramagnetic Ni2+ in protein samples purified by immobilized metal ion affinity chromatography. Methods Enzymol. 614, 87-106. doi.org/10.1016/bs.mie.2018.08.037

polyhistidine affinity tag (His-tag) と immobilized metal ion affinity chromatography (IMAC)、つまり His-tag を融合させた蛋白質を Ni-NTA(nitrilotriacetate)カラムで精製する方法は、簡単なため広く使われています。しかし、ニッケルイオンは常磁性であるため、もしこれが最終サンプルに残っていると、スペクトルを劣化させてしまいます。実際に、ピークが消えてしまっている例が載っていました。また、水のピークもブロードになるため、水ピークによるベースラインの歪みも示されています。

筆者らの例では、最後に逆相クロマトグラフィーをかけたにもかかわらず、分子量 7.5 kDa の蛋白質 950 uM に対して、ニッケルイオンが 12 uM もコンタミしていました(つまり、蛋白質 80 分子に対して 1 個の Ni2+)。すると、上記のようなスペクトルの劣化が見られたそうです。おそらく蛋白質表面に露出した Glu/Asp などにイオンがトラップされてしまい、局所的にピークがブロードしたのでしょう。しかし、同時にピーク全体の平均強度が 2/3 ぐらいに落ちていますので、付いたり離れたりの交換は速いようです。

筆者らは、[Ni(PAR)n]2+ (PAR=4-(2-pyridylazo)resorcinol, n=1, 2) を使って、Ni2+ イオンの濃度を測定しました。まるで pH 試験紙のように、濃度によって色が変わるようです。上記の 12 uM では、色が黄色からオレンジ色に変わります。

レジンの製品によって、剥がれ落ちてくる Ni2+ の量は異なるらしいのですが、wash や elution の段階で 1 mM ぐらいの Ni イオンが落ちてくることもあるそうです。私のところでも、Ni-NTA カラムからの溶出液をそのまま放置しておくと、翌日には蛋白質が沈殿になってしまうことが多いです。これは、剥がれ落ちてきたイオンに、His-tag 蛋白質が絡み付いてしまうためではないかと思っています。また、そのような状態で His-tag を切ろうとして thrombin などを入れても切れないことが多いです。したがって、Ni-NTA から溶出してきた溶液には、すぐに EDTA を 5 mM ほど入れることにしています。また、その後のゲル濾過 buffer にも EDTA を 1 mM ほど入れています。その後、Amicon などの限外濾過で EDTA を除いてもよいのですが、0.5 mM EDTA ぐらいですと、1H-15N HSQC にはほとんど弊害を及ぼしません。

また以前にも書いたかもしれませんが、His-tag 融合蛋白質は、どうも大腸菌発現系で inclusion body に行ってしまう率が高いように思います。同じ種類の蛋白質で違いが出ます。His-tag が N 末端に付いていると、リボゾームから出てきたペプチド鎖が fold していく際に His-tag 部分が巻き込まれるのかもしれません。そのため、(His)6-tag ではなく、長めの (His)10-tag を使う人もいるそうです。長い方が巻き込まれた時の被害が余計に大きそうにも思うのですが。