2021年2月7日日曜日

Ni2+ ion の impurity

ヒスタグの話です。

Glover, S.D., Tommos, C. (2019) A quick and colorful method to measure low-level contaminations of paramagnetic Ni2+ in protein samples purified by immobilized metal ion affinity chromatography. Methods Enzymol. 614, 87-106. doi.org/10.1016/bs.mie.2018.08.037

polyhistidine affinity tag (His-tag) と immobilized metal ion affinity chromatography (IMAC)、つまり His-tag を融合させた蛋白質を Ni-NTA(nitrilotriacetate)カラムで精製する方法は、簡単なため広く使われています。しかし、ニッケルイオンは常磁性であるため、もしこれが最終サンプルに残っていると、スペクトルを劣化させてしまいます。実際に、ピークが消えてしまっている例が載っていました。また、水のピークもブロードになるため、水ピークによるベースラインの歪みも示されています。

筆者らの例では、最後に逆相クロマトグラフィーをかけたにもかかわらず、分子量 7.5 kDa の蛋白質 950 uM に対して、ニッケルイオンが 12 uM もコンタミしていました(つまり、蛋白質 80 分子に対して 1 個の Ni2+)。すると、上記のようなスペクトルの劣化が見られたそうです。おそらく蛋白質表面に露出した Glu/Asp などにイオンがトラップされてしまい、局所的にピークがブロードしたのでしょう。しかし、同時にピーク全体の平均強度が 2/3 ぐらいに落ちていますので、付いたり離れたりの交換は速いようです。

筆者らは、[Ni(PAR)n]2+ (PAR=4-(2-pyridylazo)resorcinol, n=1, 2) を使って、Ni2+ イオンの濃度を測定しました。まるで pH 試験紙のように、濃度によって色が変わるようです。上記の 12 uM では、色が黄色からオレンジ色に変わります。

レジンの製品によって、剥がれ落ちてくる Ni2+ の量は異なるらしいのですが、wash や elution の段階で 1 mM ぐらいの Ni イオンが落ちてくることもあるそうです。私のところでも、Ni-NTA カラムからの溶出液をそのまま放置しておくと、翌日には蛋白質が沈殿になってしまうことが多いです。これは、剥がれ落ちてきたイオンに、His-tag 蛋白質が絡み付いてしまうためではないかと思っています。また、そのような状態で His-tag を切ろうとして thrombin などを入れても切れないことが多いです。したがって、Ni-NTA から溶出してきた溶液には、すぐに EDTA を 5 mM ほど入れることにしています。また、その後のゲル濾過 buffer にも EDTA を 1 mM ほど入れています。その後、Amicon などの限外濾過で EDTA を除いてもよいのですが、0.5 mM EDTA ぐらいですと、1H-15N HSQC にはほとんど弊害を及ぼしません。

また以前にも書いたかもしれませんが、His-tag 融合蛋白質は、どうも大腸菌発現系で inclusion body に行ってしまう率が高いように思います。同じ種類の蛋白質で違いが出ます。His-tag が N 末端に付いていると、リボゾームから出てきたペプチド鎖が fold していく際に His-tag 部分が巻き込まれるのかもしれません。そのため、(His)6-tag ではなく、長めの (His)10-tag を使う人もいるそうです。長い方が巻き込まれた時の被害が余計に大きそうにも思うのですが。