2014年12月27日土曜日

かのセスト

下記の論文 communication と書かれてありましたので、ちょっとお茶の間にでも読もうかなと思いダウンロードしてみると、なんと 150 ページもありました。大半は supplement なのですが。。。

Long D, Sekhar A, and Kay LE (2014) Triple resonance-based 13Cα and 13Cβ CEST experiments for studies of ms timescale dynamics in proteins. J. Biomol. NMR 60, 203-208.

ここの所すこぶる忙しく、長らく L.E.Kay さんの論文を読んでいませんでした。久しぶりの Kay さんの論文ですが、この流れるような文章にはいつも感心してしまいます。

英語の文章というと、最近 Essential Cell Biology 4th を買いました。画像や動画をサイトからダウンロードでき、その出来の良さに感動してしまいました。さらに英文が非常に分かり易い!同じ事を表現するのにも、ここまで文章表現を改善できるとは!おそらく、イラストや文章のプロが著者ら研究者の書いた初稿を校正しているのではないかと予想しています。動画は米語発音ですが、生物学英語の listening の練習にもうってつけです。しばらく経ったところで、なんと Molecular Biology of the Cell 6th が出てしまいました。ただ、文字フォントが Essential よりもちょっと小さいような気がします(だんだんと読みにくい年齢に)。ストライヤーの生化学と合わせて読んでいますが、お互いの特徴がそれぞれ出ており、両者を並べて読んだ時の面白さは格別です。例えば「転写」「翻訳」などの章を並べて読んでみてください。お勧めです。

ところで、CEST と DEST の違いは何でしょう?どちらも 1H, 15N, 13C などに B1 パルスを当てます。それをいろいろな resonance-offset から照射します。それぞれの offset において一次元 1H スペクトル、あるいは、二次元 HSQC などを測定し、各ピーク強度と offset の関係のグラフを作ります。DEST は Dark-state Exchange Saturation Transfer の略であり、CEST は Chemical Exchange Saturation Transfer の略です。Dest はアミロイド β-モノマーがプロトフィブリルと交換する系に適用され、DARK で観ることのできないプロトフィブリル状態との交換を観測しました。一方、CEST は ground-state と excited-state の間で交換している系に適用され、観ることのできない後者を観測しています(この論文ではそれぞれ fold した状態 95% と unfold した状態 5% に対応します)。ということは、DEST は高分子量ゆえに普通では観えない状態を観測する方法で、CEST は量少なしゆえに普通では観えない状態を観測する方法なのでしょうか?後でやっと理解したことですが、DEST は高分子では横緩和が速くなることを利用しています。ですので、ground-state と excited-state のそれぞれの R2 の違いを利用しています。一方、CEST では excited-state と ground-state のそれぞれの化学シフトの違いを利用しています。ちなみに、TCS (Transfered Cross Saturation), STD (Saturation Transfer Difference) では、高分子から低分子へ saturation を伝えていますが、これも複合体と単量体の間の交換の系に適用されます。なお、CEST は CPMG よりももっと遅い交換に適用できるらしいです(kex=500 /sec ぐらいの系でもっとも感度が高いですが、この論文では 140 /sec の試料を使っています)。

話をもとの論文に戻しましょう。この実験のパルス系列は基本的には (HACACO)NH に似ています。観測軸は 15N と 1HN で二次元となりますが、13Ca を CEST として観測しますので、これに次元を与えると疑似三次元のようになります。13Ca へは offset をずらしながらスピンロックをかけます。90° パルス幅に換算して 10 ms 程度という非常に弱いスピンロックです(@600MHz NMR, あてる時間は論文では 125 ms, あまりスピンロックが弱過ぎると C-C カップリングで分かれた multiplet を見てしまいます)。これの offset を 30Hz 間隔でずらしながら、それぞれの offset で二次元 1H-15N スペクトルを測ります。

(HACACO)NH では 13Ca(i) - 15N(i+1) - 1HN(i+1) のスピンを通してコヒーレンスを伝えていきます。ですので、あるアミド基のピーク強度は、一個前のアミノ酸の 13Ca の CEST によって変わります。

(HBCBCACO)NH パルス系列を使うと Cb の CEST もとることができます。しかし、ここで注意が必要です。このパルス系列では、Hb → Cb を通して入ってきたコヒーレンスと Ha → Ca を通して入ってきたコヒーレンスとが合流しているのです。そのため、帰属用の CBCACONH では Ca と Cb の両方のピークが見えるのです。しかし、今回のように Cb の CEST だけを見たい場合にはこれはまずいです。そこで偶数回目に 13Ca にだけ選択反転パルスをあてて、13Ca スピンを反転させています。そうすると、偶数回だけ積算した後には 13Ca を通ってきたコヒーレンスはキャンセルし合うことになります。

他にも Kay さんらしい工夫があちこちにありますが、詳細は論文をご覧ください。いずれにしても、励起状態(ここでは unfold した蛋白質)の 13Ca の化学シフトの位置に offset が来ると、saturation の状態になります。この saturation が基底状態(ここでは fold した蛋白質)に交換現象を通して伝わりますので、15N-1H のピーク強度が下がります。スピンロックをあてる時間が長ければ長いほどピーク強度はどんどん下がります。この時の T1rho に相当する緩和時間についてですが、今回の論文のように、本来は 13Ca だけの z-スピンにした方がゆっくりと緩和します。しかし、Fig.S1 に載っているように HNCOCA をもとに CEST を行うと 15N, 13Co と 13Ca の zzz-3 スピン秩序に 13Ca スピンロックをあてることになります。15N と 13Co の緩和が加わる分だけ普通は T1rho が速まってしまいます。ところが、分子量が大きくなってくると、この zzz-3 スピン秩序では 13Co-13Ca の同種核双極子相互作用の J(0) 成分が関与しないので、HNCOCA での T1rho の方が遅くなってくるそうです。なるほど、そこまでは考えませんでした。それにしてもこの Fig.S1 の φ1 位相のパルスについてですが、これは2本の 90 度パルスで、φ1 は前の 90 度パルスのための位相でした。小さい画面で見ていると、合わせて 180 度パルスに見えてしまい、どうも legend に載っている位相回しではおかしいおかしいと悩んでしまいました。

2014年10月29日水曜日

ZZ-交換3

転写因子が DNA 上の特異的な認識配列をどのようにして探すのかについて調べた論文です。

Ryu KS, Tugarinov V & Clore GM. (2014) Probing the rate-limiting step for intramolecular transfer of a transcription factor between specific sites on the same DNA molecule by 15Nz-exchange NMR spectroscopy. J. Am. Chem. Soc. 136, 14369-14372.

NMR の 15Nz-exchange 法を使うと、転写因子が DNA 上の認識配列である A-サイトから B-サイトへどの程度の速度定数で動いたか、あるいはその逆(B-サイトから A-サイトへ)も調べることができます。この論文で著者らが工夫した点は、少なくとも以下の3点です。

1)A-サイトと B-サイトの DNA 配列を微妙に違わせた。両者ともに認識配列であり、異なる箇所は 5' 側の数塩基対だけである。したがって、親和性に差はほとんどない。すると、蛋白質がそれぞれのサイトに相互作用した時の蛋白質側の 1H/15N ピークも微妙に異なってくるので、この転写因子がどちらに付いたかがすぐに分かる。

2)A-サイトと B-サイトの両方をいっしょに組み込んだ DNA 分子と、どちらか片一方だけを組み込んだ DNA 分子の両方を作った。

3)上記の2を作る時に、B-サイトを逆さまに配置した DNA 分子も作った。あるいは、A-サイトと B-サイトの位置関係を入れ替えた DNA 分子も作った。

この(2)の工夫が非常に面白いのです。A-サイトから B-サイトへ移ったことは 15Nz-exchange スペクトルで、A-サイト結合時のピークと B-サイト結合時のピークの間に交差ピークが出ることで簡単に分かります。しかし、同じ DNA 分子内の B-サイトに移ったのか、それとも別の DNA 分子の B-サイトに移ったのかが分かりません。

そこで、著者らは一つの DNA 分子内に A-サイトあるいは B-サイトのどちらか一方しか含んでいない状況で、この DNA 分子の濃度を変えながら交換速度を測りました。そして、この DNA 分子の濃度が0になる地点までグラフを外挿すると、何と交換速度が0だったのです。これが意味することは、DNA 分子から転写因子 HoxD9 が離れてしまって、どこにも付かずに溶媒に漂うことはないということです。確かに、この HoxD9 の親和性は解離定数にして 1nM 以下と非常に強く、HoxD9 がどこにも付かずに単独で泳いでいるような状況は想定外としてよいのでしょう(koff が極めて小さい)。よって、ある程度の量の DNA を入れてあげた状況では、HoxD9 と DNA の複合体に別の DNA 分子がやって来てぶつかった時に HoxD9 がそのぶつかって来た DNA 分子に「乗り移る」と考えることができます。そして、この乗り移りの交換速度 k-inter は、このグラフの傾きから求めることができます。

では、一つの DNA 分子内に A-サイトと B-サイトの両方を含んだ状況で、この DNA 分子の濃度を変えながら交換速度を測るとどのような結果になったのでしょう。この DNA 分子の濃度が0になる地点までグラフを外挿すると、交換速度が 1 /sec 程度の値をとりました。つまり、分子内での A-サイトから B-サイトへの交換速度 k-intra がこれに当たります(なぜならば、上記の結果で HoxD9 が DNA から離れる交換速度 koff は0であることが分かっているので)。 B-サイトから A-サイトへの交換速度も同じ程度でした。

一つ面白いことは B-サイトを逆向きに入れた DNA も作ってあったことです。ところが、B-サイトを A-サイトと同じ向きに入れた DNA を使った場合と交換速度はあまり変わらなかったのです。これは、HoxD9 が A-サイトと B-サイトの間にある時(つまり、非特異的に DNA に付いている時)、それこそ DNA の上で「くるん!」と HoxD9 が瞬間に向きを逆転させたためでしょう(HoxD9 が一度 DNA から離れて遥か彼方に去ってしまってから今度は向きを逆転させた状態で衝突してくるのではない)。

ただし、塩濃度をどんどん減らしていくと、様子が異なってきます。この場合も塩濃度を振りながら k-intra を測定し、そのグラフを塩濃度が0になる地点まで外挿します。すると、HoxD9 が逆転しないといけないような状況では、速度定数が6割ぐらいに小さくなりました。これは DNA にくっ付き過ぎて、うまく「くるん!」ができなかったためでしょう。

分子内の転移(k-intra)の値を比べた結果、HoxD9 が特異的配列から3プライム方向へ1塩基対だけ移動した時にそこで引っ掛かってしまい、律速になっているのではないかという事が分かりました。逆に特異的配列から5プライム方向に1塩基対だけ移動する時は引っ掛かりが少なく、k-intra も 1.6 倍大きいそうです(1.6 ×という値は小さ過ぎてそれほど意味がないかもしれませんが)。

また、分子間でHoxD9 が A-サイトから B-サイトに移る際、どうも DNA 分子の5プライム側の末端から入っていくのではないかと示唆しています。それは B-サイトの5プライム側の境界と DNA 分子の末端との間の距離が短いほど k-inter(A→B) が大きいためです。しかし、これも上記と同じように推測の域を出ません。

実はこの実験法 ZZ-exchange は 2013/4 頃に紹介したことがありました(もうそれから1年半も経ってしまいました)。その時の式では I_AB(tau) と書くと、それは B → A の変化を示すと書きました。しかし、今回の論文では素直に前から後ろの添字の向きに変化すると読んでください。Supplement にこの ZZ-exchange の McConnell の式が書かれています。最近は数値計算ソフトを使えば、この程度の対数行列は瞬時に計算してくれますので、フィッティングには前回の書き下し式を使うよりかは、この McConnell 式を直接つかった方が楽かもしれません。CPMG 法や DEST, CEST 法のフィッティングでもそのようです。しかし、データの S/N 比があまりよくないような場合には、前回紹介しましたように、あるピークとあるピークを足した強度に簡略化した理論式をフィッティングさせ、まずは簡単な変数から fix していく方が信頼性が高くなるでしょう。

2014年9月22日月曜日

同種核のデカップル

同種核の間にある J-coupling を decouple するのはなかなか難しいです(しかも直接測定軸 FID の上では)。ただ方法がないわけではなく、最近も幾つか紹介されてはいます(1H homo-decoupling の方法については近々ご紹介いたします)。今回は蛋白質の 13Co の FID を検出している最中に 13Ca をデカップルするというお話しです。そのような事できるのかな?と思っていたら、なんと 13Co の FID の最中に大胆にも 13Ca-選択的パルスを打つという驚きの方法でした。

Ying J., Li F., Lee J.H., and Bax A. (2014) 13Cα decoupling during direct observation of carbonyl resonances in solution NMR of isotopically enriched proteins. J. Biomol. NMR 60, 15-21.

そういえば昔もう 20 年ほど前に、1HN の FID 検出の最中に 1Ha を decouple するという方法がありました(つい最近も発表されているようです)。3J (HN-Ha) が decouple されるため、確かに 1HN のピークがシャープになるのです(蛋白質を重水素化した場合には、この 3J カップリング 3J (HN-Da) が小さくなって線形がシャープになるという効果もあります)。しかし、Bloch-Siegert 効果やノイズなどの問題があり、今は頻繁に使われているようには思いません。今 13C 直接測定でもっともよく使われている(仮想的な)デカップリング法は IPAP 法でしょうか?In-phase と anti-phase の二つのスペクトルをとっておいて、足したり引いたりして doublet の一方をキャンセルさせるのです。Sofast-HMQC でも 15N-decoupling パルスを使わない方法として、この IPAP 法が使われていますね。デカップリングパルスによる熱は発生しないし、機械にも優しいので、個人的にはこの IPAP 法を採用しています。

この論文では 13Co の FID 5 ms ごとに 13Ca 選択的パルスを打っています。ということは、pi-パルスを打つ直前ではどうしても 1J(Co-Ca)=53 Hz のカップリングのために信号強度が 91% に減じています(cos(pi*53*0.0025) = 0.91)。pi-パルスが打たれた後はこれが回復していき、また 2.5 ms 経ったところで峠を超えて強度が減っていくことになります。5 ms ごとに pi-パルスを打っていますので、200Hz ごとにサイドバンドが生じることになります。このようにある種の周期性は FT の後にサイドバンドという形で偽ピークを生み出します。800MHz NMR ですと、各信号の両横にだいたい 1ppm ごとに出るのでしょうか?しかし、図を見る限り、それほど大したサイドバンドではなさそうです。

選択的 180° パルスについてですが、これは sinc パルスを使っています。13Co(177 ppm)に carrier を置いていますので、13Ca を off-resonance で叩きます。しかし、13Co には影響ができるだけ小さくなるように設計します。一つは sinc パルスが影響を与えない点 null-point が 13Co の周波数の位置になるように(113 us @800MHz NMR)、もう一つは off-resonance(118 ppm)を周波数変調ではなく、cos 強度変調にすることです。これにより 13Ca 領域(59 ppm)だけにではなく、295 ppm(177+118)にも対称的にパルスが打たれてしまうことになりますが、両側から対称的に Bloch-Siegert 効果がやってくるので、それら二つでお互いに打ち消し合うことになります。13Co はスペクトル幅が狭い(蛋白質で 16 ppm 程度)ので、このような手が使えるのですね。スペクトル幅が広いと、中点の周波数位置(177 ppm)から離れるにしたがって(二種の)Bloch-Siegert 効果(の一次の項)のキャンセルがうまくいかなくなります。そして、このような pi-パルスを MLEV16 で位相回しをしてアーティファクトをさらに小さくしています。また、295 ppm 付近になりますと、13C のチューニングもずれてきます。したがって、295 と 59 ppm の両方に平等に打っているというわけではなくなってしまいます。しかし、上記のような要因による 13Co ピークのずれは、せいぜい数 Hz 程度とのことですので、心配する必要はなさそうです。

ちなみに、3D HNCA などで 13Ca の展開時間に 13Co に Seduce 連続デカップリングパルスを打つ場合などには十分に気を付けてください。かなり 13Ca のピークがずれます。もう一つの 3D HN(CO)CA のパルスプログラムを全く同じ形式で作り、全く同じパラメータを使っていれば、3D HNCA と HN(CO)CA では同じようにピークがずれますが(したがって、連鎖帰属を繋げる分には問題ない)、異なるパラメータを使うと悲惨です。いくら両者を見比べても 13Co のピークは一致しませんので、主鎖の連鎖帰属が失敗するのです(昔はこのような些細なことで数ヶ月を棒に振ったものです)。この失敗がよく起こるのは、3D HNCACB と 3D CBCA(CO)NH をセットでとった時です。両者は磁化移動の向きが異なりますので、ついうっかり 13Co デカップリングのパルスプログラムも別々に書いてしまうのです。このようなミスを防ぐために最近の Br 社の標準パルスプログラムでは、13Co に shaped の単発パルスが使われています。これなら、Bloch-Siegert 効果は 13Ca のピークの位相を少し変える程度で済みます(ピークの位置を大きくずらしたりはしません)。

Supplement に Br 社のパルスプログラムが載っていました。なるほど、FID の最中にパルスやグラジエントを打つ際にはこのように書けばよいのですね。このループカウンターにはちゃんと整数値が入ってくれるのかな?間違えて浮動小数点が入力されてしまい、それが誤って integer で読まれてすごい数のループになってしまい、実質的な FID の長さが数秒に。。。。無用な心配はやめておきましょう。

2014年8月11日月曜日

煮沸磁気共鳴

ひょんな事から、蛋白質の NMR はいったい最高何度で測られたことがあるのだろうという事実を調べることになりました。

Varnay I, Truffault V, Djuranovic S, Ursinus A, Coles M, and Kessler H. (2010) Optimized measurement temperature gives access to the solution structure of a 49 kDa homohexameric β-propeller. J. Am. Chem. Soc. 132, 15692-15698.

超好熱性古細菌(「高熱」ではなく「好熱」)由来の Ph1500 と呼ばれる蛋白質の C-末端ドメインです。この C-末端ドメインは単量体では 71 a.a. ですが、溶液中では6量体を作りますので、合計 49 kDa となります。もちろん6回回転対称性です。

温度を 80℃ にまで上げると、回転相関時間(蛋白質が1ラジアン = 57.3° 回るのに要する時間と、正確ではない定義ですが、考えることができます)が室温での 1/3 程度となり、NMR の線幅が細くなるとのことです。もちろん、高温では蛋白質分子のブラウン運動が速くなることもその一因ですが、水の粘性が下がることもおおいに影響しています。

この蛋白質は 95℃ では凝集してしまったそうです(原著では 268 K と書かれていますが、368 K の間違いでしょう。著者もいつもとは違う異常な温度に接して頭の中が混乱しているのかも)。しかし、85℃ では一週間でも大丈夫だったとのことです。

溶媒条件は以下のとおりです。
 リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)意外に高いですね。
 NaCl 250 mM(600 or 750 MHz の室温プローブを使っています。クライオプローブですと、よほどの勇気がない限り難しいでしょう。)

主鎖の帰属には [2H, 13C, 15N]-Ph1500C(単量体換算で 0.6 mM)を使いました。測定法は一連の TROSY-HNCO などです。温度は 45℃ で、帰属率は 99% です。本当は 55℃ の方が良さそうと感じたそうですが、どうもこの三重標識試料は精製が不十分であったため 50℃ で沈殿してしまったそうです。それで仕方なしに 45℃ で測定したそうです。三重標識試料は培地が高価で、さらに大腸菌での発現量が少ないので、どうしてもクロマトグラフィーではケチってサンプリングしてしまいます(溶出ピークの裾野もがばっと取り込んでしまうという意味)。そのため、非特異的に他の蛋白質などがくっ付いてきてしまい、それらが凝集を促す場合がよくあるのです。

一方、側鎖の帰属には [13C, 15N]-Ph1500C(単量体換算で 1.2 mM)を使いました。測定法は HCCH-TOCSY, HCCH-COSY などです。温度は 80℃ で、帰属率は 97% です。このようにアミド 1H が関与しない測定法では高温が効いてきます。この温度で 2D 1H-15N HSQC を測ると、少なくとも Asn, Gln の -NH2 のペアピークは全滅したそうです(溶媒によく露出しているので)。

なお、側鎖を 80℃ で帰属したので、13C-edited NOESY などもその温度で測らないといけません。そうでないと、側鎖 1H の化学シフト値がずれてしまいます。ところが、一般的に NOE の感度は高温にするとよくありません。しかし、著者らは「高温にすることによってメチル基がより完全に観えることの方が構造決定には有利である」と書いています。

一応 Xplor-NIH を使って構造を計算しています。各サブユニットは8本のβストランドからなり、4本ずつ2枚のβシート(2枚の羽根)を形成しています。6量体ですので合計 12 枚の羽根がプロペラのように並んでいます。構造計算でややこしかったのは、8本のβストランドのうち一番端の一つ(β1)だけが次の羽根に属していることです。つまり、6量体の輪のなかで循環的にドメインスワップが起こっているのです。

温度が高ければ何でもよいというわけでもありません。高温がよく効くのは、側鎖の帰属の時です。側鎖のほとんどの 1H は溶媒と交換しないためです。一方、主鎖を帰属する時には 15N-1H の TROSY を多用しますが、このアミド 1H は、高温では水の 1H と簡単に化学交換してしまいます。ここが泣き所です。この交換速度は、溶液の pH や、そのアミド基がどのぐらい溶媒に露出しているか、また隣に電荷をもった残基があるかどうかなどで変わってきますので、その中庸をとると 50℃ ぐらいがよいということになるのでしょうか?また、主鎖と側鎖の帰属用の測定でそれぞれ温度が 50, 80℃ と異なるので、両者の帰属を一致させるためには途中の温度でもいくつか測定をして、ピークの移動をたどってあげる必要もあります。

また、論文にも記載されていましたが、高温で初めて観えてくるアミド基もあります。これは室温ではちょうど intermediate-exchange mode で broad になり過ぎて観えなかったピークが、高温にすると fast-exchange mode に入って観えてきたためでしょう。

大きな蛋白質を NMR で観測するためには側鎖の 1H を 2H に重水素化することが必須の手段になってきます。ところが、そうすると 1H 間の距離情報である NOE がとれなくなります(1H はアミド基と少しの側鎖に残っているのみ)。その意味では高温でも安定でホモロジーの高い蛋白質を好熱性の種からとってきて、それを NMR で構造解析するのが一案なのかもしれません。そういえば「好熱菌まるごと一匹プロジェクト」があったように(明確な理由はいまだ不明なのですが)好熱性生物の蛋白質は安定で立体構造解析に向いている場合が多いのです。哺乳類でも超好熱性マウス(地獄温泉で泳ぐのが好きなマウス)の蛋白質がとれれば良いのですが。

2014年8月9日土曜日

結晶に板をさしこむ

セルラーゼの固体 NMR の論文が出ました。

Ivanir H1, and Goldbourt A. (2014) Solid state NMR chemical shift assignment and conformational analysis of a cellulose binding protein facilitated by optimized glycerol enrichment. J. Biomol. NMR. 59, 185-197.

実はセルロースやキチンといった固体が基質となるような酵素では、その相互作用部位を溶液 NMR で解析するのが非常に難しいのです。なぜならば、基質は固体であり水に溶けないためです。そこで、セルロースやキチンをオリゴ糖(3〜6つ単位)に小さくして何とか溶けるようにした基質を使います。溶液 NMR により酵素のどこの領域がこのオリゴ糖に付くのかを調べるのです。ところが、このようなオリゴ糖には全く見向きもしない酵素もあるのです。どうすればよいのでしょう?

そうか!固体 NMR という手がありましたね。と楽しみにしながらこの論文を読み始めました。

微結晶はふつうの X-線結晶構造解析の時と同じように作り(Hampton 社の Crystal screen kit #48)、できた針状結晶を 4mm ZrO2 ローターに詰めたとのことです。詳細に計算してみますと、約 150 ug の蛋白質が1ドロップにあることになりますので、150 個ほどの井戸から微結晶を集めてきてローターに詰めたことになります(合計 20 mg の蛋白質)。培地 1L あたり 40~50 mg!ほど調製できたと書かれていますので、やはりそのぐらい超大量の収量がないと、この固体 NMR の微結晶の実験は難しいのかもしれません。なお、このセルロース吸着ドメインは 146 a.a. の大きさです。

二次元の 13C-13C DARR (mixing time, 15ms) では、Thr, Ala, Ser の 13Cα-13Cβ 相関ピークが他から孤立していて見つけやすいそうです。これらの残基は 13Cβの化学シフト値が特徴的なので、溶液 NMR の HNCACB-CBCACONH ペアでもアミノ酸配列情報に照らし合わせやすいですね。

また Trp の Cγ も 111 ppm 付近にあるので見つけやすいとのことです。しかし、同じ Trp の Cζ2(114 ppm, ツェータでゼット z のこと)もその辺りにありますので注意したいところです。

主鎖は最初は 3D NCACX と NCOCX を組み合わせて連鎖的に帰属しています。ちょうど前者が溶液 NMR での残基内 CCANH(HNCACB), 後者が残基間 CCONH(CBCACONH)に相当するといったところでしょうか?スピニングは 11~13.5 kHz です。

Pro の 15N は(そこに 1HN が付いていないため)140 ppm ぐらいにピークが出ます。さらに Gly の 15N は100~105 ppm ぐらいに出ます。そのため、15N-13C 間の磁化移動のための cross-polarization ではちょっと強めのパワーで打った方が良いそうです(その代わり selectivity は落ちますが、それほど問題にはならないでしょう)。

また、蛋白質の調製については、著者らがそのセルラーゼで最適化させた結果、次のような培養法がもっとも良かったとのことです。

BL21(DE3) 大腸菌を目的蛋白質のプラスミドで形質転換
↓
OD (600nm) が 0.8 に達するまで LB-rich 培地 1 L で培養
↓
遠心して集菌、洗浄
↓
167 mL のグリセロール最少培地 * に植菌(よって 1,000/167=6倍濃縮)
↓
1時間の培養のあとに IPTG を 1 mM 分いれて発現誘導
↓
翌朝まで培養
↓
40 mg ものセルラーゼを get

(注)グリセロール最少培地 * の組成(培地の量は 167 mL であるため、実際に使った試薬の量は下記の 1/6 ずつ)

8 g/L [2-13C]-glycerol
8 g/L NaH13CO3(いわゆるベーキングパウダー、重曹)
1 g/L 15NH4Cl

このようにして適度に 13C 標識を減らしてやることにより、13C-13C J-coupling や 13C-13C dipolar-coupling を減らすことができ、結果としてスペクトルがきれいになったとのことです。帰属率は主鎖が 80%、側鎖が 43% とのことです(固体ですので、13C, 15N)。

一般的に結晶構造解析で B-factor の値が大きかった箇所のピークが観えにくかったとのことです。 これはその箇所が flexible あるいは構造に多形があるためでしょう。確かに 14 a.a. ほど連続した領域の帰属ができていません。また、グリシンの続いている領域は B-factor が大きいのにもかかわらず、NMR ピークはよく観えていたそうです。Flexible といってもその時間領域もピークの見え方に関連してくるのでしょう。さらに、周りをどれだけ同種核に囲まれているのかも。

13Cαと13Cβの化学シフト値がランダムコイルの化学シフト値からどれだけずれているかをもとに Talos+ にかけたところ、87.5% が結晶構造と一致したそうです。(な〜んだ、結晶構造がすでに分かっていたんだ。もちろんこの固体 NMR 用に微結晶を作っているぐらいですからね。しかし、目的は相互作用解析ですから、これからこれから)。

と読んでいるうちに終わってしまいました。ちょっと待った、まさか、これだけ!?これだと 20~30 年前の溶液 NMR の論文と同じレベルではないですか。

やはり、いったん微結晶を作ってしまうと、相互作用を見るのは難しいのでしょうか?溶液 NMR のように基質を少しずつ滴定していっても微結晶の中にキチンと入っていくかどうかは分かりません。X 線結晶構造解析ではよくリガンド溶液に結晶をソーキングさせて... などと聞きますが。しかし、この場合もリガンド(基質)が水に溶ける低分子でないと駄目ですね。頑丈な板状の大きな固体では、ちょっと .... 。

2014年7月21日月曜日

タコうみうしイカ変化

この前「タコいか変化」のところでアロステリック効果のモデルの一例として Hilser-Thompson モデルをご紹介しました。その総説のような形で下記の記事が出ていました。

Hilser, V.J., Wrabl, J.O., and Motlagh, H.N. (2012) Structural and energetic basis of allostery. Annu. Rev. Biophys. 41, 585-609.

ほとんどの内容はこの前の「タコいか変化」でご紹介した PNAS と同じなのですが、後半に3つのドメイン(サブユニット)が関連した例が挙げられていました。さすがに3つが相互作用するとなると複雑でして、数式の上ではボルツマンの式に当て嵌めるだけなので簡単なのですが、これを直感的に理解するのは大変です。この3つのサブユニットはそれぞれ I, II, II と名付けられ、I にはリガンド A が II にはリガンド B が III にはリガンド C が相互作用します。

リガンド A を入れると LigA が I と相互作用し、その結果 III に LigC が付き易くなります。これは agonist 的現象です。ところが興味深いことに、LigB を最初に入れておくと、上記と逆の antagonist 的な結果になることがあるのです。つまり、その後で LigA を入れて、その LigA が I と相互作用すると、なんと III に LigC が付きにくくなるのです。

もちろんこれをシミュレートするためには、I, II, III それぞれの安定性や、お互いの相互作用について、それらの各エネルギー値をうまく設定してやる必要があります(しかし、筆者曰く、それほど特異な値ではなく、生理的によくあり得る値であるとのことです)。では、Fig. 7 での例を見てみることにしましょう。なお、T は unfold してリガンドが付かず、R は fold していてリガンドが付くものとします。しかし、この unfold/fold の制限を必ずしも T/R にむりやり当て嵌める必要はなく、いわゆる MWC モデルで出てくる T, R 状態(両者ともに unfold しているわけではない)を連想しても同じ結果となります。

最初は TTT が 97% を占め多く存在します。ここに LigA がサブユニット I に付くと RRR が 51% に増えます。この RRR の サブユニット III は LigC を好んで付けるため、LigA は LigC の相互作用に関して agonist 的に働いたことになります。

一方、同じようなサブユニット構成において、LigB がサブユニット II にすでに付いているような状況を考えてみます。すると、TRR が 90% を占めるような状況が初期状態となってしまいます。LigB が無い上記の条件では TRR はたったの 2% であったのに対して、LigB の結合によりサブユニット II の R 状態が安定化して TTT よりもはるかに多くなってしまったのです。すると、ここに上と同じように LigA が来ると、何と変な事が起こるのです。LigA により RRT が 42% まで増えますが、これに LigC は付くことができません。残りの 58% が LigC の付くことができる RRR です。しがたって、LigC の付くことができる分子種が TRR の 90% から RRR の 58% に減ってしまったのです。これより、LigA は LigC の相互作用に関して antagonist 的に働いたことになります。

何だか複雑ですが、実は agonist 的条件、antagonist 的条件のいずれにおいても終わりの状態はほとんど同じなのです。つまり、RRR と RRT が 6:4 ぐらいに比率で終わります。違いはむしろ最初の状態にあるのです。Agonist 的条件では TTT が優勢です。これに LigC は付きませんので、TTT → RRR の変化が見掛け上めだち agonist 的に見えます。もう一方の条件では最初は TRR が優勢です。これは LigB の結合により起こるのです。そして、これには LigC が付きますので、TRR → RRT の変化が見掛け上めだつのです。

このように LigB があるかないかの違いだけによって、LigA が LigC に対してまるで全く逆の作用を起こしているかのように見掛け上みえるのは何とも興味深い現象です。このような現象を KNF モデルで説明できなくもないのですが、それを構造の面から証明するのは大変かもしれません。しかし、HT モデルですと、同じ熱力学的平衡状態の式を使ってこの現象をむしろ簡単に?説明できるのです。

この例ではサブユニット1と2の間の親和性Δg12 は吸着、Δg23 も吸着、Δg31 だけが反発という設定になっています。しかし、もしいずれもが吸着だとすると、antagonist 的条件での TRR は 90% よりも低くなり、かつ RRT も減り、その分 RRR が増えるので antagonist 的な現象は見られなかったことでしょう。このようにサブユニット間の相互作用が吸着側か反発側かで agonist/antagonist, positive/negative cooperativity が起こる可能性が出てきました。

Δg については吸着・反発と表現しましたが、そのように限定する必要はありません。この HT モデルでは、intrinsically disordered proteins を想定し、fold した R 状態どうしで相互作用をし、どちらか一方が unfold した T 状態では相互作用しないと仮定しているために、少し極端な表現になってしまうのです。むしろ、あるサブユニットにリガンドが付いて R 状態になった場合、隣のサブユニットも同じ R 状態にシフトさせるように働くのが上記でいう「吸着」positive-coupling、逆にリガンドの付いた R 状態が隣のサブユニットを T 状態にシフトさせるのを上記でいう「反発」negative-coupling と置き換えれば、もう少し一般性をもたすことができ問題ありません。

すると、agonist 的な現象は I(R) → II(R) → III(R) を通した間接的な伝播で起こり、antagonist 的な現象は I(R) → III(T) という直接的な伝播で起こると見ることができます。このような agonist/antagonist のスィッチイングはΔg12, Δg23, Δg31 の3つともが negative-coupling の時にも起こります。つまり、agonist 的な現象は I(R) → II(T) → III(R) を通した間接的な伝播で起こり、antagonist 的な現象は I(R) → III(T) という直接的な伝播で起こるためです。

2014年7月18日金曜日

見掛けと本質の親和性は違う

アロステリックモデルの MWC モデルを NMR で鮮やかに示した論文として、やはり下記の Kay さんの論文がお見事に一言に尽きます。この数年間に何度も何度も読み、他の人にいろいろと紹介していながら、同時に理解と忘却をこうも繰り返した論文も珍しいかもしれません。

Velyvis, A., Yang, Y.R., Schachman, H.K., and Kay, L.E. (2007) A solution NMR study showing that active site ligands and nucleotides directly perturb the allosteric equilibrium in aspartate transcarbamoylase. Proc Natl Acad Sci USA 104 (21), 8815-8820.

題材はかの有名な Aspartate transcarbamoylase です。この ATCase は Stryer をはじめいろいろな生化学の教科書に紹介されていますので、詳細は是非そちらをご覧ください。反応機構は下記のようになります。


ATCase は触媒サブユニットと制御サブユニットそれぞれ6個ずつから成っています。総分子量は 306 kDa 程にもなりますので、普通の 2D 1H-15N HSQC では歯が立ちません。しかし、メチル基(ここでは Ile の δ1)を 13C-1H3 に、その他の箇所を全て 12C, 2H にて標識します。そして、メチル基の 13C-1H dipole-dipole 相互作用どうしの打ち消し合いを狙うと、このような高分子でもきっちりと二次元スペクトルが見えてくるのです。この手法を交差相関緩和を利用した Methyl-TROSY と呼びますが、その原理はかなり複雑ですのでまた今度に。

もし、リガンドと蛋白質との相互作用が fast-exchange で R と T 型構造の間の交換が slow-exchange ならば、リガンドの滴定に沿って R と T 由来の二つのピークが別々に移動していきます。この ATCase の二次元 1H-13C TROSY-HMQC NMR スペクトルはまさにそのようでした。この場合、それぞれの titration curve は双曲線型となりますので、T, R それぞれでのミクロな Kd 値を得ることができます。この Kd (micro, T) と Kd (micro, R) に加えて、リガンドが全く付いていない時の R と T のモル比(L0=T0/R0)、あるいは、リガンドで満たされた時の R と T のモル比(L6=T6/R6)が分かると、全ての過程におけるモル比(Ln=c^n * L0, c=Kd (micro, R) / Kd (micro, T))を計算することができます。一方、他の分光法では T と R がごちゃ混ぜで検出されてしまいますので、二つの R 型と T 型での双曲線をミックスしたシグモイド型の曲線を解析しないといけません。双曲線(hyperbolic)型ですと、ごく普通の Michaelis-Menten 式の chemical shift perturbation に従いますので、解析は極めて簡単です。したがって、R と T 状態が NMR で別々のピークとして現れるということは、非常に嬉しい事なのです。

Kd (micro...) は Kd (macro) とは異なります。前者はよく intrinsic な(固有の)解離定数(Kd)とも書かれますが、リガンド結合部位とリガンドとの間の解離定数です。一方、Kd (macro) は蛋白質全体とリガンドとの間の解離定数です。例えば、ATCase は6個の基質結合部位を持っています。今そこにすでに2つのリガンドが付いているとしましょう(P.L2)。ここに3つめのリガンド(L)が付く場合の解離定数は次のようになります。

Kd (macro) = [P.L2] * [L] / [P.L3]

これが macro な(apparent な、みかけの)解離定数となります。しかし、リガンド結合部位の個数を数えると少し違ってきます。[P.L2] で空いているリガンド結合部位の個数は4個です。ですので、[空席のリガンド結合部位] = 4* [P.L2] となります。さらに [P.L3] で占められたリガンド結合部位の個数は3個です。ですので、[着席のリガンド結合部位] = 3* [P.L3] となります。したがって、

Kd (micro) = [空席のリガンド結合部位] * [遊離のリガンド] / [着席のリガンド結合部位] = 4 * [P.L2] * [L] / (3 * [P.L3]) = 4/3 * Kd (macro)

これがよく教科書に出てくる

Kd (apparent) = j / (n-j+1) Kd (micro)

の式の意味です(上の例では、n=6, j=3)。

この Methyl-TROSY の実験から、ATCase は間違いなく MWC モデルであると分かりました。もちろん MWC と KNF は果たして言われている程に差のあるものなのか?両者ともに極端な条件での例であって、両者の間の折衷モデルもあり得るのではないか?という事を今後は議論していくことにしましょう。

最後にこの論文に興味深いことが書かれていました。ATP は制御サブユニットの方にくっ付きます。そして、ATCase 全体の平衡を R 状態へと傾けていきます。これは良いのですが、ATP が次の ATP の親和性に与える影響は、どうも KNF モデルのように見えるらしいのです。Mg-ATP の滴定曲線の結果がわずかな positive cooperativity を示しています。確かに制御サブユニットはホモ二量体の形を作っています。そのため、相互作用した方の制御サブユニットがまだ相互作用していない方の(隣の)制御サブユニットに何らかの影響を与え、Kd (micro) そのものを変えてしまった可能性が考えられます。