2015年8月10日月曜日

乾かしてもミルクは牛乳

前回「クマムシも絶賛」の続きです。

いつもコーヒーには牛乳を入れるのですが、先週のように牛乳がヨーグルト化してしまった場合などには、代わりにクリープを入れます。他にもこのようなパウダー粉末の製品はいろいろとあるのですが、どうもクリープとは味が違います。森永乳業の肩をもつわけではありませんが、この森永の HP を見てみると「牛乳から作っているのはこの Creap だけ」とのメッセージが強く書かれています(http://www.creap.jp/)。そこまで自信たっぷりと主張されるのであれば、これも高校生実習の中に組み込んでみるかということになり、ちょっと調べてみることになりました。

下がその NMR 1次元と2次元 1H-13C HSQC スペクトルです。たいへん驚きです。牛乳のスペクトルとまったく区別がつきません。脱帽です。



もちろん、各種成分の配合比率などは変わってきますので、Creap そのものを単純に水に溶かしたからといって、それが牛乳そのものに生まれかわるわけではないと思いますが、まあ主要成分についてはほぼ同じと見てよいかもしれません。しかし、やはりコーヒーには牛乳を入れる方が美味しいんですよね。まあ、これは本当のコーヒー好きなのではなく、単に「コーヒー牛乳」が好きなだけなのかもしれません。むかし給食によく出た「ミルメーク」なんて今でも大好物ですし。 缶コーヒーでも BOSS カフェオレが最高だと思っているぐらいですから。

ところで、NMR スペクトルの帰属では BioMagResBank にたいへんお世話になりました。このようなデータベースがちゃんと管理されていると本当に有難いです。これで何ヶ月分を得したことか。それから、意外にも牛乳の NMR に関する論文がちゃんと出ており、それをかなり参考にさせていただきましたので、ここに紹介させていただきます。

Hu, F., Furihata, K., Ito-Ishida, M., Kaminogawa, S., and Tanokura, M. (2004) Nondestructive observation of bovine milk by NMR spectroscopy: analysis of existing states of compounds and detection of new compounds. J. Agric. Food Chem. 52, 4969-4974.

なんと東大の田之倉先生の論文でした。

そういえば、別の実習(市民対象の NMR 講習会)で、日本酒のスペクトルをいろいろと調べたことがありました。今回の牛乳よりももっと複雑なスペクトルになります。とても1次元ではダメで、1H-13C HSQC スペクトルがないと解析が不可です。これが日本酒の味を決めているわけですが、この時も田之倉研の博士論文を参考にさせていただきました。簡単ながらここにお礼申し上げます。

実はお酒の NMR は非常に難しいのです。それはお酒には大量のエタノールが含まれているためです。このエタノールの量に対して微妙な味を決める代謝産物はほんのちょっとしか含まれておりません。この芸術作品に昇華させている原因をスペクトルで観るためには、エタノールの巨大なピークを抑えないといけないのです。ところが、二次元を測ってみて初めて分かるのですが、ここに1次元の落とし穴があります。なんとエタノールの -CH3, -CH2 ピークと同じ 1H 化学シフトの位置に、いっぱい代謝産物のピークが存在するのです。したがって、エタノールのピークを抑えるということは、それら微量の代謝産物のピークを見逃してしまうことになるのです。さらに、ロックの問題もあります。このように、いろいろと注意すべき点がたくさんあるエタノール飲料の NMR ですが、これについてはまた別の機会で触れることにしましょう。まずは、高校生実習を成功させなければ。

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