2017年9月4日月曜日

6量体といえど大きい

ちょっと書きかけの状態で長らく置いてしまっていた文章を見つけてしまいました。本当はもっと全部をしっかりと読んでからアップロードすべきなのですが、時機を逃してしまいましたので、未完成ですがアップしてみます。ここ4年程の間に連続して出ている巨大蛋白質の NMR 解析についてです。第一著者の女性は、ICMRBS-Kyoto をはじめ、さまざまな学会賞を受けておられます。

Rosenzweig R, Moradi S, Zarrine-Afsar A, Glover JR, and Kay LE. (2013) Unraveling the mechanism of protein disaggregation through a ClpB-DnaK interaction. Science 339, 1080-1083.

Rosenzweig R, Farber P, Velyvis A, Rennella E, Latham MP, and Kay LE. (2015) ClpB N-terminal domain plays a regulatory role in protein disaggregation. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 112, E6872-6881.

Rina Rosenzweig and Lewis E. Kay (2016) Solution NMR spectroscopy provides an avenue for the study of functionally dynamic molecular machines: the example of protein disaggregation. J. Am. Chem. Soc. 138, 1466–1477.

Unfold した蛋白質は ClpB の N-末端ドメイン(NTD)に捕まります。その際、構造の壊れている蛋白質のどこが掴まれてしまうのかですが、どうも一連の 3~6 残基からなる疎水性領域のようです。つまり、何かしらの目印となるようなタグが付けられているわけではないということです。この疎水性領域はちゃんと fold した蛋白質の表面にはあってはならないわけですが、ただ一連の疎水性領域というだけで特異性が出ている(ClpB がちゃんと fold した蛋白質については間違えて摂り込まない)のは驚きです。また、いろいろな unfold した蛋白質を加えた場合に観られる ClpB 側の化学シフト値の変化は、加えた蛋白質の種類によらずいずれも同じような傾向を示すそうで、これは両者の複合体がダイナミックに動き続け、化学シフト値の変化が平均化されていることを示しています。そのようなダイナミックな状況でも特異性が出せるのも驚きです。

一方、NTD のどの箇所で unfold した蛋白質を捕まえるのかも NMR で検出できており、それらのうち少なくとも4残基は(Trp6, Leu14, Leu91, Leu111)のようです。いずれも疎水的な残基です。そして、これらを Ala に置換すると、予想された通り unfold した蛋白質との相互作用はなくなり、そのため NTD 側の化学シフト値は滴定で変化しませんでした。また、NTD は通常は ClpB の真ん中の穴を塞いでおり(ClpB は6量体で六角形をとる)、unfold した蛋白質と相互作用した場合に穴の入り口を開けるそうです。すると、unfold した蛋白質の鎖がその穴に引きこまれ、穴の中にある6個の Tyr243 からなる Tyr-pore と相互作用します。すると、ATP の加水分解が促進されるとのことです。このように、まず最初に NTD が unfold した蛋白質を捕まえ、それで蓋が開いて、次に Tyr-pore が捕まえるという流れが ATP の加水分解に必要なようで、もし、NTD をすっかり取り去ってしまうと、中心の穴の入り口を塞いでいた蓋はなくなるので、一応はペプチド鎖は穴の中に入っていくことも条件によってはありますが、その効率は下がり、ひいては ATP 加水分解の速度も落ちてしまうのです(しかし、蓋が閉まったままの NTD の変異体よりかはまし)。

高度好熱菌が由来の蛋白質で 55 ℃で測定しています。NTD ドメインだけでも NMR 測定ができたり、97 kDa の単量体(intact では6量体)にして測定もできています。さらに refolding を通してインテインによる segmental-labeling まで行っています。いつかご紹介する ATCase(Aspartate Trans Carbamoylase) もそうですが、このような激しい処理をしても沈殿や凝集を起こさないような蛋白質は非常に稀ではないかと思います。

確かに 97*6 kDa の分子量でも Ile, Leu, Val のメチル基だけを 13C/1H で、残りを 2H で標識し、methyl-TROSY(パルス系列としては普通の 2D 1H-13C HMQC と同じ)を使えば、なんとか測定できます。このように分子量の限界はかなり大幅に克服されつつありますが、さすがに対象が大きいだけに、今度はメチル基といえどもピークどうしが重なってくるようになってきます。そこで、立体特異的に標識された Leu, Val の前駆体を使う必要が出てきます。これまでの前駆体はラセミ体であり、二つのメチル基の内どちらか一方だけが 1H/13C にはなるものの、どちらになるかは五分五分の確率でした。したがって、大量の(10 の 20 乗レベルの分子数)の信号を足し合わせると、geminal な(双子の)メチル基は両方ともピークとして二次元スペクトル上に現れてしまうのです。大きな分子量に対処するためのもう一つの方法は segmental-labeling でしょう。ここでも NTD だけをメチル基標識し、それ以外の6量体の部分は重水素化しています。これによって、分子量の合計値は 580 kDa と巨大なのですが、観えてくるピークは NTD 由来だけとなります。もちろん、インテインや Sortase を使って部分標識できるような蛋白質に限定されてしまいますが。

つい最近、次のような総説が出ました。

Jiang, Y., and Kalodimos, C.G. (2017) NMR studies of large proteins. J. Mol. Biol. 429(17), 2667-2676. doi: 10.1016/j.jmb.2017.07.007.

もちろん Kalodimos さんの総説ですので、例として齋尾先生の Triger-Factor chaperone のダイナミクス構造解析も紹介されています。今後 MDa 級の大きさの蛋白質を解析していくには、1)メチル TROSY(今は Met, Ile, Leu, Val, Ala, Thr の5種類の標識が可能)が必須であること、2)それで感度の問題が克服されたとしてもピークのオーバーラップや帰属の問題が出てくるので、安定同位体標識のさまざまな手法を駆使して、区分的に標識していくこと、3)構造や相互作用の解析では(重水素化のために)NOE がとりにくくなるので常磁性効果の導入が必要であることなどが書かれています。例えば、上記の segmental labeling、それから Leu, Val の二つのメチル基のどちらかだけを立体特異的に標識すること、LEGO-NMR なども重要です。また、大腸菌の発現系ではうまく fold しない蛋白質も増えてくるので、酵母系や昆虫細胞系でのメチル基の標識技術も発展させる必要があります。

このような高分子量蛋白質の NMR 解析の論文をみると「divide-and-conquer approach をとった」としばしば書かれています。「分割統治法」と訳され、要は大きい対象は小さく分割して、それぞれを解決してから後でそれらを組み立てて元の大きさにまで発展させる一般手法のことです。上記の ClpB のようにドメインやサブユニットに分けても大丈夫な場合には、その小さいセグメントから解析した方が結果的には早いでしょう。しかし、ばらばらにすると崩壊してしまう蛋白質も多いので、いつもこの方法が使えるというわけではないと思います。また、最近の電子顕微鏡のように大きいままで観てしまえるような手法も出てきています。したがって、これらの手法に対抗しようとするのではなく、むしろ複数の手法を組み合わせることによって、構造生物学としての情報量を増やすことがますます重要になってくるのでしょう。いずれにしても、MDa レベルにまで NMR が達したというこの進展は快挙だと思います。

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